「花村くんって、本当に月森くんのことが大好きなのね」
それまでがどんな会話の流れだったのか、なんてことは覚えていない。だけれど、口をついて出た私の言葉にヘーゼルの瞳をおおきく見開いた彼が驚きを隠しもしなかったことだけに私がひどく苛立ったのだけは確かだった。
「―――え……なに言ってんだよ、天城」
はっと我に返って、へらへらとした笑みを貼り付けたままでわざとらしく"いつも通りの"軽率な性格で振る舞おうとする。
「んなわけねぇだろ、そりゃあ相棒だし、リーダーだし頼れるけどさぁ」
大好きとかそんなのじゃねぇよ、ははは。ありえねぇ、だって俺もあいつも男だぜ?無い無い、ありえねぇってば。普段よりも流暢な口調になっていることにすら気が付いていないのか、彼は笑う。笑う。
「天城も、いきなり何言っちゃってんだよー。思わずびびっちまったじゃんかよ」
そうやって軽々しい態度を繕って薄いくちびるから平然と嘘を並べ立てることなど容易いほどに、それほど彼は彼を恋慕している。文字通り、恋慕っているのだ。
「……だって、そうじゃない」
吐き出した声の低さに、自分でも驚いた。訝しんでこちらを窺った彼をちらりと見遣ると僅かに顔色が悪かった。
「天城……?」
微かに青白い肌の色が、不安げに揺れ動くブラウンの瞳が、掠れ気味の低い声が、私を興奮させる。あぁ、彼は今、動揺を隠すことが出来ないんだわ。
「―――…ねぇ花村くん、隠さないで」
「っな、に…を……」
「私には、隠さないでいいのよ?」
「……何を、言ってるんだよ」
「やだ、何ってそんなの」
言うまでもないじゃない。
囁くように呟くと、引き攣る喉が愛しい。怯えを誤魔化しきれずに私から目を逸らせない彼が可愛らしくて仕方がなかった。
「花村くん、もう抑圧したりしなくてもいいのよ。月森くんに対するその気持ちが友情や仲間意識なんて生ぬるい感情なんかじゃないことはとっくの昔に気が付いているんでしょう。だったら押さえつけたりする必要は無いの。そんなことをしても貴方が苦しいだけ。そうでしょ?だからね花村くん、私には正直に全部話していいのよ。全てを晒け出していいの。隠し立てなんかしないで、全部」
見開かれた彼のうつくしい双眸に映っているのは私だけ。その事実に戦慄を覚えるほどの幸福感が込み上げてきた。どうしよう、このままじゃ私は彼に溺れてしまいそうだわ。あ、そうだった、私はもう既に
(頭の先から足の指の先まで漬かっていたのだったわね、御愁傷様)
end.