There's no turning back.

※陽介先天性女体化


気付けば彼女はいつでも傷だらけだった。

少しでも目を離せば戦闘で前に出すぎて強いシャドウ相手にもまったく気後れなどする様子もなく、寧ろ僅かに興奮を孕んだ様子で向かっていく。軽快に振りかざしたスパナでアルカナカードを粉砕して喚び出した青い魔術師、スサノオに疾風魔法を命ずるとたちまち巻き起こった強大な嵐で敵を易々とダウンさせた。

「行くぜ、相棒!」

颯爽と嬉しそうな笑みを浮かべて俺を振り返る彼女はいつだって生き生きとしていたし、シャドウを倒すこと、そして事件の謎を解き明かすことに俺以上に使命感を感じていた。他の仲間に力が入りすぎていると言われても陽介はそんなことないよ、と笑うだけだったし、俺があまり気負うなよ、と言えば気負ってなんかねぇよ、とはぐらかすように作り笑いを浮かべるだけで。

そんな彼女を突き動かす原動になっていたのは心の奥底に抱えていた沈澱物であったことは間違いなかった。そして俺自身もその事実にうっすらと気が付いていたというのに今にも崩壊してしまいそうな脆くて危うい虚勢で精一杯強がっていた陽介のなかに土足で踏み込むようなことは出来なかった。そんなことをしてしまえば彼女の大事な何かに触れてしまう。どろどろとした穢い下心を抱えた俺が触れてしまえば最期、きっと彼女を汚してしまうのだと。そう悟ってしまっていた俺には、彼女を引き留めることなど出来やしなかったのだ。


×


だから俺はこの昏く冷たい無機質な病室に閉じ込められたまま、今も脱け出せずに居るのだろう。目隠しをされたように何も見ることは叶わない。陽介を引き留められず、真実から目を背け、生田目に全ての罪を擦り付け、突き落とし、何もかもから逃げ出した、この無力な俺にはきっとこの檻がひどくお似合いだ。


(僕にはこうするしかなかったんだ)



end.



title by サボタージュ




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