歓喜と絶望


振り上げられた脚の死角に潜り込み、支点となっているもう片方の足を払う。小さく小回りの利く身体は、力こそ足りないが、隙をつくには最適だ。バランスを崩した男の首に、死ぬ気の炎を薄く纏わせた手刀を入れて沈めた綱吉は、死屍累々となっている周囲のヤンキーらしき少年達を見回して、肩を鳴らす。

「ちょっとやりすぎたかなあ…。」
「いいんじゃないの、こいつら調子に乗ってたみたいだし。」
「だよねえ、手応えもないのに出る杭は地中深く沈めてやった方がいいよねえ。…ん?」

オレ誰と話してるんだ?振り返ると、天使かと見紛うほどの、いやまさしく地上に降りた最後の天使かつやたら見覚えのある小学校低学年ぐらいの男の子がいた。ずっと会いたかった、ひと。

「きみ、さわだつなよしでしょ?噂は聞いてるよ。《並盛の神童》だっけ。」

興奮はみるみるうちにしぼんでいった。綱吉には前世の記憶がある。平凡というにはダメダメな人生から、マフィアとして生きマフィアとして死んだ記憶が。そして今、何故か前世と全く同じ世界で、ロール・プレイング・ゲームでいう二週目をしている彼は、所謂強くてニューゲーム状態なのだった。
何故こうなったのか?そもそものはじまりは、雲雀が死んだ戦いがボンゴレ内の抗争で、その彼を殺した銃弾が特殊弾と判明したことだった。それを使って後追いしたら、この世界に生まれていた。心に余裕が出来た頃に、同じ銃弾で死んだ雲雀さんもこの世界にいるのでは?そう期待して、雲雀の居場所を知らなかった綱吉はまず見つけてもらえるように名を上げてみることにしたのだ。幸い、リボーンにありとあらゆることを仕込まれたから、莫大な知識に高すぎる身体能力、品格さえ感じさせる完璧な所作を少しずつ披露するうちに、並盛で沢田綱吉を知らぬ者は殆どいなくなった。お陰で絡まれることも増えたが、先程のように小学校一年生とは思えぬ腕っぷしで返り討ちにしてしまうので、噂は尚更に拍車がかかっていく。
雲雀に会いたい。見つけてほしい。マフィアなど預かり知らぬ自由の身で、今度こそ愛を伝えたい。その一心で、今日まで生きてきた、のに。

「…はい。あなたは雲雀恭弥さん、ですよね。」
「ワオ!知ってもらってるだなんて光栄だね。」
「それはこちらの台詞ですよ。」

どうしよう、会えて嬉しいのに。

「ねえ、」こんなに愛しいのに。
「僕と遊んでよーー《化け物》。」

切り裂かれた胸が痛くて、泣きそうだ。

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