Clap



人に何かをあげる時、ドキドキ半分不安半分。
喜んでくれたときの笑顔を想像しながらも、気に入ってもらえなかったときの反応も考えてしまう。
「……あ。」
綺麗な蒼い石の嵌まったシルバーのネックレス。
見つけた瞬間に浮かんだのは、銀髪と蒼いピアスのちゃらんぽらんな先輩兼クラスメートだった。
あげたい、と思う。つけたときのことを想像して、似合うと思ったから。
だけどクロウは喜んでくれるだろうか。なんとなくだけど、変な気を回しやがってとやんわり拒否されそうな気がした。それでも最後には受け取ってくれそうだけれど。
「すいません、これお願いします」
シルバーのネックレスの前に立ってから数十分、結局は購入してしまった。
買っただけでドキドキするなんて、渡すときはどうなってしまうんだろう。なんてことない、日々のお礼だ。
宿題を写させろと行ってきたり、サボろうとするところを捕まえたり、……なんだかこっちが迷惑をかけられているような気がしてきたけれど、確かに感謝はしている。
旧校舎で出した、俺の異形にクロウは何も言わなかったし、誰にも言わないで居てくれた。それを本当に、ありがたいと思っている。みんなに打ち明けられたのも、クロウがきっかけだったから。
「深い意味なんてない、お礼だからいいよ、な……」
誰もいないのに言い聞かせるように呟いて、青い箱をポケットに仕舞い込んだ。





「……これを、オレに?」
寮で夕飯を食べた後、部屋に戻ろうとしたクロウを呼び止めて渡した。
不思議そうなクロウに、そのお礼だからと言えば何かしたっけ?と返される。
「……その、旧校舎で助けてくれただろ。あれ本当に感謝してるんだ、誰にも言わないで居てくれて、……引かないでもくれたから」
「リィン……」
「だからその!大したものじゃないけど、迷惑じゃなければ、受け取って……欲し……い」
段々と声が小さくなって、クロウの顔がみれなくなっていく。迷惑だと言われて突っ返されたらどうしよう。なんとなくだけどクロウは受け取ってくれると思い込んでいたから、さっと渡してさっと寝てしまうつもりだったのに。
「バカ、あんなもんで引くかよ」
「え?」
ぽん、と頭に手を置かれて思わず顔を上げる。仕方ないな、と言いたそうな顔をしたクロウがそこにいて、それからサンクスなと言った。
「大したことした覚えねーけど、ありがたく貰っとくよ」
「あ……!ありがとう」
「なんだそりゃ、ありがとうはこっちの台詞だろ」
「あ、そ、そうか。そうだな」
「あんがとな、おやすみ」
「うん、おやすみ」
クロウが受け取ってくれたことにホッとして、部屋に戻る。その後クロウがそれを着けてるところは終ぞ見なくて、もしかして売られてしまったのだろうかなんて考えたりもしたけれどそれでも良かった。ただ受け取ってくれたことが、嬉しかったから。





だから驚いた。まさかクロウがそれを持っていて、あまつさえ今つけるなんて思ってもなかったからだ。
クロウはあの服を用意していた私服だと言った。つまりは、学院時代に渡して、痕跡ひとつ残さず寮を去ったあの日から内戦の間もずっと持っていた事になる。
そこまで大事にしてもらってるなんて、思いもしなかった。恥ずかしくて爆発してしまいそうだ。
「クロウ、その、それ……そのネックレス」
「あー……これ、な。お前がくれたやつ」
「あ、や、やっぱりそうなのか……」
「その、あの頃はオレお前裏切るの決まってたし、つけられる立場じゃないと思ってたから」
「……今は、つけられるのか?」
恐る恐る聞くとクロウはネックレスをつまみ上げてふっと笑った。
「卒業したし。それに言ったろ?お前に最期まで付き合うって」
消えちまうその瞬間まで、お前の味方だからよ、とクロウが言う。
消えるなんて言うな、とかネックレスつけてくれてありがとう、とか言いたいことは山ほどあったのに口に出すことが出来なくて、伸ばされた拳に拳をつけるだけで精一杯だった。
たとえ短い間だとしても、味方として隣にいてくれる、その事がこの上なく嬉しいんだなんて、言ったらクロウはどんな顔をするかな。






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