い つ ま で 待 て ば 、


人気のない公園に、ギーィギーィとブランコの軋む音が響いている。

「遅いなあ・・・」

また部活が長引いてるんだろうな。
容易に想像はつくけれど、だからと言って持て余した暇がどうにかなるわけではない。

「・・・まあ仕方ないか」

膝に作ったタメを、ブランコのスイングに合わせて開放する。
グンっと空が近くなった。

「みぃんな、剣術馬鹿だからなあ・・・!」

オレンジとブルーが溶け合う空に、小馬鹿にしてるとも感嘆してるとも取れる声が吸い込まれる。
『剣術馬鹿』達に届けとばかりに放ったその台詞に、返事があった。

「だーれが剣術馬鹿だって?」

不服そうな拗ねたような、子供っぽい口調。
デカい図体には似合わないけど、それがまた彼らしい。

「トシ君とー、総司とー、一君とー、平君とー・・・」

ゆーらゆーら揺られながら一人ずつ名前を挙げていく。
最後にブランコのベンチをトンっと蹴って、ダイブした。

ぎょっとした顔が予想通りでおかしい。
慌てふためいて肩に担いでいたカバンを放るのと、自分が彼にぶつかったのとがほぼ同時。

「新八君ー・・・っと」
「・・・馬っ鹿野郎・・・!」

頑丈な肩の上で抱えられ、カレンはからからと笑った。
ナイスキャッチ、と褒めてみたら、腰に絡まった新八の腕に力が入る。

「いったた、痛い痛い、新八君・・・!」
「心臓に悪いことすんじゃねえよ、ついでにお前の膝が鳩尾入ったんだよ!
 それなのに何だ、その能天気な態度は・・・!」
「ごめんごめん・・・!」
「笑ってんじゃねえか!落とすぞ!?」
「あ、駄目駄目。もうちょっとこのまま」

バタバタと足を振って抗議する。
また鳩尾に膝蹴りを入れられては敵わない、新八は仕方なくカレンを落とさないよう抱え直した。
するとカレンも大人しくなる。
ゲンキンな彼女に、新八は深々と溜息をついた。

「ったく・・・一体何だってんだ?」
「ん?高い目線を楽しみたくて」

ひょいと首を傾けて、新八の顔を覗き込むカレン。
いつも見上げるのとは違う。
何せ今は彼の肩に担がれてるのだ、当然新八を見下ろす形になる。

「気分い〜い・・・!」
「人見下ろしてその台詞かよ・・・」

最早手のつけられないゴーイングマイウェイっぷりに、再び溜め息が零れた。
カレンを肩に担いだまま、地面に落ちた自分のカバンとブランコの横に放置されている彼女の分もついでに拾って、よいせと歩き出す。

「・・・?あれ、どこ行くの?」
「皆の所だよ!腹減ったから、ファーストフード!」
「携帯に連絡くれれば、行ったのに」

暢気な台詞に新八は恨めしそうな声で抗議した。

「連絡したっつうの。出なかったのはお前だ」
「・・・あー携帯、カバンの中だ」
「そらみろ。おかげで俺はまだ飯にありつけてねえんだぜ、どうしてくれる・・・!」

本気で憤っているようだ。
腕が小刻みに震えているが、そんなの知ったこっちゃない。

「それはどうせ新八君がじゃんけんで負けたからでしょ〜?」
「やかましい、ポテト奢れ!」
「私はポテトよりナゲットが好き〜あとジンジャーエールが好き〜」

完全に新八の意向を無視してのたまったら、ついに呆れ果てたか彼からの返事は無かった。
はて・・・と見下ろしてみるが、少し俯きがちで表情は分からない。
でもむすっと脹れっ面の新八が容易に想像できた。

(からかい過ぎたかな・・・?)

だって嬉しかったんだもの。
一人で寂しいなつまらないなって思ってたら、新八が迎えに来てくれて。
それで調子に乗ってしまったから・・・つい。

「・・・新八君、そろそろ下りる」

身じろぎするが、新八は下ろしてくれなかった。

「おーい、新八君・・・?」
「・・・」

声を掛けても、黙ったまま。
こっちを見てもくれない。

カレンの高揚した気分がみるみる萎んでいく。
まずかった、調子に乗り過ぎた。
最初にちゃんとお礼を言うべきだった。

「・・・ごめんね」
「・・・」
「迎えに来てくれて、ありがとう」
「・・・最初っからそう言ってろ」
「はい・・・」

元気なく答えると、ぽんぽんと背中を叩かれた。

「あー、くそっ、元気出せ!・・・って、なんで俺が慰めてんだあ・・・?」
「えぇと、それは新八君が優しいからだね」
「真面目に答えんな、照れんだろお・・・?」
「難しいなあ、もう・・・っと、あれ?」
「んあ?どうした?」

カレンの疑問形な呟きに、新八は顔を上げる。
・・・彼女の返事を待たずとも、答えが分かった。

「おーいっ、新八っつぁんー!カレンー!」

ぶんぶん腕を振って走ってくるのは平助だ。
手には大きなビニール袋。

「平助、走ると飲み物が零れるぞ」
「いいんじゃない、零れた分は平助のってことで」
「転んで俺達の飯を台無しにすんなよ」

平助の後ろに、一と総司、左之助の姿も見えた。
カレンが手を振り返すと、走ってやってきた平助が息を切らせつつ声を上げる。

「何してんだよ、新八っつぁん!セクハラ!」
「なっ、なんだと!?これはむしろカレンの方がだな・・・!」
「いいからさっさとカレンを離せって」

カレンを抱えてるおかげでガラ空きの脇腹に、左之助が蹴りをかました。
ごえっと妙な呻き声をあげる新八。
緩んだ腕から、カレンは器用に逃れて地面に下り立つ。

「あれ、食べ物買って来たんだ?」
「ああ、店内が混んでいてな。外で食そうという話になった。
 ・・・あんたが待ってる公園へ向かっていたのだが」
「そっか、じゃあ戻ろう」

くるりと向きを変えるカレン。

「ほら、新八君。起き上がって。お腹空いてるんでしょ?」

横っ腹を押さえて地面に屈んでいる新八に声を掛けると、新八は据わった目つきをして立ち上がった。

「ちっきしょう、もう我慢ならねえ・・・平助!その袋の中身、全部寄越せ!今食う!ここで食う!」
「何言ってるの、新八さん」
「新八の分はねえよ、自分で買って来い」

呆れ気味の総司とにべもない左之助。
そして仰天の新八。

「なっ・・・!?なんっじゃそりゃあ!!!何で俺の分はねえんだよ!?」
「突然公園に向かったのはあんただろう、新八」
「カレンの分は買っておいたぜ、ナゲットとジンジャーエールでいいよな」

あ、ありがとう・・・と左之助にお礼を言うが、なんとなく背中に嫌な汗が流れる。

「・・・あれ、新八君の分・・・本当にないの?」
「だって『カレンの奴、何やってんだ!待ち切れねえ、呼んで来る!』って勝手に走り去ったの、新八さんだもの」

彼の分などあるわけないとばかりに、逆に総司は不思議そうな顔だ。
平助も横でうんうん頷く。

「せめて食いたいもん言ってくれれば、買ってたんだけどさあ」
「おいおい、平助にしては随分甘やかすな。その金、絶対返って来ねえぞ」

ははっと笑って左之助が流すが、カレンはもう新八の方を見ることが出来なかった。
・・・気の毒すぎて。

「お・お・お・・・お前らあああああ!!!」

新八の怒号が響き渡るが、いつもの事なので誰も気に止めない。

「叫んでねえで、早く買って来い。ゆっくり歩いてるからよ」
「公園着いたら先に食ってるな!」

ぞろぞろと公園に向かって歩き出す。
畜生!と一声吠えて、新八は皆と逆方向へ走り去った。
あっという間に小さくなる背中。
放っておけなくて、立ち止まり見送るカレンに一が声を掛ける。

「どうした、カレン。行くぞ」
「う、うん・・・」

本当、悪いことしてしまった。
申し訳ない気持ちは勿論あるが、不憫な新八が新八らし過ぎて可笑しくもある。

(それに・・・)

空腹が耐えきれないってこともあったんだろうけど、一人突っ走って迎えに来てくれたことがやっぱりすごく嬉しかった。

「・・・ありがと」

ぽつりと呟くと、一が首を横に振って答えてくれた。

「礼には及ばん。
 あんたの分の勘定は左之がしていたから、後で返しておくようにな」
「・・・うん」

頓狂な返事にカレンは笑う。

歩き出す前に、ちらりと背後を振り返った。
流石にまだ新八の姿は見えない。
慌てて買い込んで、一目散に走ってやってくる彼を想像して、一層笑みが零れた。


いつまで待てば、
一人で寂しい時は、
きっと君が迎えに来てくれる




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