※夢主は島原で働いている設定です。






「名前にございます、どうぞよしなに」

そう言って見上げた先にあった綺麗な赤に見惚れたのが始まり。
その一瞬で、私は、燃えるような赤に恋をした。




久しぶりに会う左之助さんの顔は、どこか疲れているように見える。
お酒を注いだ手で疲れの滲む目じりをそっとなぞれば、その指は大きな手に絡めとられた。
重なって、絡む指先は、お酒のせいかひどく熱を持っている。

「お疲れでござんすなァ、」
「そんな喋り方すんな、今は俺とおまえだけだ」

近づいてきた顔を見上げれば、彼の長めの前髪がはらりと顔の前で小さく揺れた。
その髪を撫でるように耳にかけてあげる。

「…疲れた顔、してる」
「ああ、だから名前に癒されにきた」
「私に?」

屯所にいる、男の子の格好をしてるあのかわいい女の子ではなくて?
そう続けた私に困ったように笑う顔さえ素敵で、だけどそんなことをまっすぐに伝えられるほど素直にはなれない。

「…つれないこと言うなよ」

そう言って傾けられた顔が首筋に落とされる。
そのまま背中にまわった腕が強く強く私を抱きしめて、伝わる体温に、左之助さんに会えない間胸の奥にあった暗い気持ちが弾けていくのがわかった。

「つれない私は、嫌い?」
「バカいうな、」

少し顔を離して重ねた視線。
自惚れでなければ、愛しい愛しいと、その瞳が伝えてくる。
だから私も、そっと、気持ちを返すように広い背中に手をまわした。
心臓の上に耳を当てて、どくんどくんと動く音を聞きながら目を閉じる。

この人は武士、いつ散るかもわからない。
戦いの中に身を置いているこの人の中の一番になりたいなんて、そんなこと言えやしない。
そして私も、まだあなただけの私にはなれない。
ずっと繋いでおけない手と手。
それでも、いつかは繋げると信じてるから、信じたいから。
私を逃がさないでいてね。

「…ねえ、左之助さん」
「ん?どうした?」

胸に寄りそったまま見上げて、私を覗き込む顔を引き寄せる。

「大丈夫って笑って、そしたらいつもみたいに左之助さんを送り出せるから」

離れてても、会えなくても、その言葉を信じてるから。
いつもなら見せない顔で笑って引き寄せた顔に口付ければ、一瞬だけ切なそうに歪んで、次の瞬間にはいつものそれに変わってた。

「ああ、大丈夫だ、」
「…うん」
「名前、俺は消えやしねえよ」

まるで体温をわけるように強く強く抱きしめる腕に包まれて。
このままあなたの中に入っていけたらいいのに。

「だからおまえは、ここで待っててくれ」
「…はい」

零れた涙は着物に吸い込まれて消えた。



モチーフの曲は、奥華子さんの「小さな星」です。
曲を聞いたときの切ない雰囲気を出したくて、この設定にしてみました。
今回もまたうまく生かしきれなくて…切ない雰囲気が伝わってくれたらうれしいです。
一応夢主は芸妓さんの設定のつもりですが、あまり細かく決めずに書きました。
(20150121 夏野)



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