冷え性だって前に言ってた名前ちゃんの手を取れば、いつもより少しだけ熱い気がした。

「早く治せよ」
「…わかってる」

ああ、そんなに悲しそうな顔しないでよ。
きっと頭の中では、俺に迷惑かけたとかぐるぐる自分を責めてるに決まってる。

「…迷惑かけて、ごめんね」

ほらな。

「バカだな、名前は」
「高尾よりは頭いいもん」

いいもん、なんて言い方、普段ならしないくせに。
これはきっと熱あるな、名前ちゃんらしくなさすぎる。
隣を歩く名前ちゃんの顔を覗き込むように額をごつんと合わせれば、じんわり熱を感じた。

「なあ?熱あんじゃね?」
「…ないよ」
「いやいや、あるだろ」

それでも逃げるようにいやいやと首を振る名前ちゃんの口を覆うマスクの上からキスをする。
至近距離で見つめ合った目が大きく見開かれるのがめずらしくて、こんな距離で名前ちゃんのレアな表情を見れてることにうれしくなった。

「ほんとはさ、マスクなんかとって、キスで名前ちゃんの風邪は俺が全部もらっちゃいたいんだぜ」
「ダメ!」
「…知ってる」

即答されたその答えに苦笑して、ガードするようにマスクを手でおさえる名前ちゃんの指に手を伸ばす。
触れて、掴んで、引っ張って、そっとその指先に唇を落とした。

「これくらいは許してくれよ」

いつもはしっかり者の、風邪をひくイメージなんか少しもない名前ちゃんが、弱って、俺の肩にもたれ掛かってくる姿もいいんだけどさ、わりとそれなりにそそられちゃったりするんだけどさ。
でもやっぱり、鋭い猫みたいな目で俺を映して高尾って呼んでほしいし、そんなふうに熱で潤む瞳を向けられちゃったら心配しちゃうしさ。
名前ちゃんの首の後ろに手を伸ばして、そのまま引き寄せた。
その勢いのまま俺の肩に埋まる名前ちゃんを、よしよしと撫でてあげる。
俺のよしよし撫でる手とか抱き締める腕だけで名前ちゃんの風邪を治すことができたら俺はきみのヒーローになれるのにな。


言葉なく頭をすりすりと押しつけてくる仕草がきみをいつも以上にかわいく見せて、俺をいつも以上におかしくさせてきみに恋するバカな男になっちゃうんだ。




モチーフの曲は、坂本真綾さんの「まきばアリス!」です。
イメージ通りにうまく書けなくて……
付き合いたてのかわいい初々しいかんじが伝わればうれしく思います。
(20150102 夏野)



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