ひさしぶりに会えたキミは、一緒にいてもわたしを見てくれない。
見つからない友達をさがしてるのかな、じぃっと人ごみをにらみつけてる。

狗朗くん、こっちを向いてくれませんか?
キミの顔をちゃんと見たいです。
またすぐ会えなくなってしまうんだから、今のうちにキミの顔を目に焼きつけておきたいよ。

白い湯気のたつココアを飲みながら、心の中でそっと話しかけてみる。
だけどそんな心の声はキミには届かない。
相変わらずわたしから顔をそらして、人ごみをにらみつけてる。

キミの気を引きたいな。
ほんのすこしでいいから、一緒にいる今にしかできないこと。
わたしは勇気を出してみる。

ココアでぬくまった手を、コーヒーカップ握りしめてるキミの手に重ねたら、キミの指先がぴりりと強張った。
でもやっぱりこっちを見てくれない。
構ってほしいって精一杯アピールしたのに・・・と、そこでやっと気がついた。
キミがわたしを見てくれない理由(わけ)。
もしかして、もしかしなくても。

(照れてる、のかな?)

しかめつらしい顔をして人ごみを見つめるキミの頬が、うっすら赤く染まっている。
そういうことですか、と嬉しくなって、わたしの頬も思わずゆるむ。
こっちを向いてよって、狗朗の強張った指をそうっと撫でた。


重ねた手から、わたしの気持ちよ、伝われ。


そう願いをこめたら、やっと狗朗がこっちを見てくれた。
パチッと目が合う。
一瞬のことなのに、慌てて目をそらしてしまう狗朗がとてつもなく愛おしかった。

「狗朗くん」

名前を呼ぶと、狗朗はゴホンと咳をひとつ。

「・・・何だ、名前」

何だと思いますか?
狗朗の顔をのぞきこんで、そう問いかけてみたかった。
でもそんなことしたら、キミはきっともっと照れてしまうだろうから。
でもわたしを見てほしいから。

「なんでもない、よ?」

わざと語尾を疑問形にして、キミの気を引いてみる。
キミはあっさりつられて、いぶかしげな顔をしてわたしを見た。
またキミと目が合って、でも今度はそらされてしまう前に。


『 す き で す 』



わたしは声に出さないで、唇だけを動かす。
伝わるかなって不安だったけど、大丈夫みたいだ。
その証拠に、狗朗は目をみはって、息を止めて・・・時間も、彼のだけ止まってしまったみたい。

キミの後ろに見える青空に、一筋の飛行機雲がゆっくり伸びていく。
白い線がうすくなって消えかかる頃、ようやく彼の時間は動き出して、狗朗はわたしの手を取ると、その指先に優しいキスを落としてくれた。



モチーフとなった歌は、おそれ多くも、坂本真綾さんの『ハニー・カム』でした。
イメージ違いの方がほとんどだと思いますが、お許しください・・・!
(20141229 鈴星)



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