W a l k t h e T a l k # 0 3


きっかけはよく覚えていない。
蒼大とカラオケに行って、結構盛り上がって、その勢い。
数学の課題が大量に出てたこととか、蒼大の家がお好み焼き屋って聞いて行ってみたかったのもある。

「課題、丸写しだけはさせねえからな」

それだけは入念に約束させ、蒼大は承諾したのだ。
鼻歌でも歌い出しそうな勢いで、黄瀬は蒼大の後をついていく。

「ちゃんと自分で解くっスよ」
「だったら一人でやれって」
「分からないことは聞くっス」
「・・・自分で解くんじゃねえのかよ」

やれやれと溜息をつきながらも追い返さない辺り、蒼大も面倒見がいい。

「大鳥っち、聞いてもいいっスか?」
「ん?」
「どうして海常に入ったんス?」
「悪いか?」
「悪くはないっスけど、誠凛受ければ良かったのに」

こんなに近いんだからと、黄瀬はちらっと隣の塀を見上げた。
塀の向こうには見た目にも綺麗な新校舎・・・誠凛高校だ。
前に黒子を訪ねて来たことがあるから知ってる。

「・・・なんでお前、誠凛知ってんの?」
「親友が通ってるっス」
「・・・ふーん、親友なんていたのか」
「どう意味っスか!?」

あっもしかして妬いてるっスか、という黄瀬の台詞は、蒼大が持っていたパズル雑誌で見事に塞がれた。

「ほれ、到着」
「あれっ、お好み焼き屋さんじゃないんスか?」
「裏口に決まってんだろ。お前はメシ食いに来たのか?」

だったら表回って食ってけ、また月曜な・・・黄瀬を置いて、さっさと裏口を潜る蒼大であった。


*


数学の課題にまじめに取り組んでいたのは最初の15分くらいで、後はくだらない話したり、TVゲームしたり(蒼大は主にパズルを解いたり)。
時計を見ると、いつの間にやら夜7時を過ぎている。

そろそろ帰ろうかと考えた矢先に、蒼大が「メシ食ってくか?」と黄瀬に訊ねた。
・・・そしてエプロンをつけて支度を始めた。
黄瀬の脳内から『帰る』の選択肢が即行で消えた。
台所に立つ蒼大をしみじみと眺め、板についたそのサマに感嘆。

「本当に料理できるんスね・・・!」
「親も姉貴も店の方だからな。誰かが家事やらなきゃならないだろ」
「お姉さんいるんスか?」
「ああ、一個上」
「誠凛?」

そうだと頷きつつ、トントントントン・・・とよどみなく包丁でキャベツを切っていく。
今日の献立は豚の生姜焼き、トマトと山芋とオクラのサラダ、がんもの煮つけに、しじみの味噌汁。
テーブル並んだ料理に、黄瀬が目を輝かせる。

「主婦の域っスね、大鳥っち・・・!」
「馬鹿言ってないで、冷める前に食え。いただきます」
「いただきますっス!」

育ちざかりの男二人だ、みるみるうちに皿はカラになった。


*


今日も今日とて体に染みついた食べ物のにおいを取るべく、店の手伝いが終わって真っ直ぐにお風呂に直行。さっぱりした後は空腹を満たしに、居間に向かう。
廊下に漂う香ばしい生姜の香り。

(豚の生姜焼きかな)

蒼大が作る生姜焼きは玉ねぎたっぷり、少し甘辛なタレが付け合せのキャベツに絡まって、これまた美味しいのだ。
ぐううう・・・と鳴り響くお腹を押さえて、藍は居間に入った。

「蒼大、ご飯・・・わっぷ!」
「バカ藍、お客さん。これ着ろ」

目の前に被さったのは白いワイシャツ・・・蒼大の制服だ。
ホカホカとあったかいのはアイロンをかけたばかりだからか。
タンクトップにショーパン姿だった藍は、慌ててシャツを羽織った。

「えっと、こんばんは」
「ばんはっス。お邪魔してます」

キラキラの金髪に、片耳にはピアスが光ってる。椅子に座ってるが、体格がいいのは一目瞭然だ。

(・・・不良、にしては綺麗な顔立ち)

イケメン君だ、とまじまじと相手の顔を見ていたら、蒼大がパコンと頭を叩いた。

「姉貴の藍、な。さっきもさっきも言ったけど、一つ上」
「黄瀬涼太っス」

ども・・・と互いに申し訳程度に頭を下げ、藍は黄瀬の斜め前の席についた。
イケメン君、じゃない、黄瀬くんだっけ、と目が合う。
笑顔が爽やかすぎて、眩しい。金髪も眩しい。ピアスも眩しい。
藍は目をパシパシと瞬かせた。

そんな藍に黄瀬が興味津々に話し掛ける。

「お姉さんは誠凛の生徒さんなんスね」
「うん?」
「オレの友達が通ってるんス」
「へぇ、そうなんだ。名前・・・聞いても分かる気しないけど。一つ下だよね、その友達って」
「そうっスね」

じゃあ分からないな〜・・・と嘯いたら、生姜焼きの乗った皿を藍の前に置きつつ、蒼大が口を挟んだ。

「いや、多分知ってるだろ」

当然といったふうの口調に、黄瀬も藍も首を傾げる。
蒼大は大盛りによそった茶碗を姉に手渡して、その隣に腰掛けた。

「涼太、『自称:お前の親友』ってバスケ部なんじゃね?」
「自称じゃないっスよ〜」
「バスケ部?ならきっと知ってる。誰誰?」

今度は藍が興味津々だ。
共通の知り合いがいるっていうのは、なんか楽しい。小さな偶然にわくわくしてしまう。

「黒子っちっス」
「くろこっち・・・黒子?」
「あ、知ってるんスね」
「うん。黄瀬くんもバスケ部なの?」
「そうっス」
「背ぇ高いもんね。そっかあ、黒子と知り合いなん・・・あ」
「あ?」

キャベツの千切りを口に放り込もうとしたままの状態で、箸を止めた藍。

「『黄瀬くん』」
「なんスか?」
「思い出した、キミのこと。うちとの練習試合で大活躍だった子だ」
「・・・来てたんスか?練習試合」
「うん。私、バスケ部のカントクと仲良くて。時々、試合の応援にいくんだ」

そっかそっか、あの時の子かあ・・・と急に親しみが湧いたようだ。
ニコニコしながら、キャベツを頬張る。

「いい試合だったな、あれは」
「・・・俺は負けたっスけどね」

しかも生まれて初めての敗北。
カッコ悪い姿を見られてしまった。
つい苦笑いを零すと、藍は何言ってるんだかと呆れた表情。

「負けるのをカッコ悪いとか言う方が、カッコ悪〜い」
「・・・え」
「藍だって負けず嫌いのくせに。よく言う」

これまた呆れた口調で言ったのは蒼大だ。
さすが姉弟、表情も口調もそっくり。

「それより、藍。オレは連れてきたけど?」
「・・・?何を?」
「トモダチ」

藍が味噌汁を吹いた。
その隙をついて、蒼大は藍のサラダの皿からトマトを一欠片掻っ攫う。
口に放り込み、ニヤニヤと笑って(意地悪く)訊ねた。

「藍は〜?」
「・・・蒼大!」
「まだなの、カレ・・・
「大鳥ーっち!!!」

蒼大の言葉を遮って、黄瀬が声を張り上げる。
あまりの大声に、今度は蒼大がトマトを吹き出した。

「ぶっ・・・なんだよ、涼太・・・!デカい声出して・・・!」
「今!トモダチって言ったっスか!?それはオレのことっスか!?」
「お前のそのキラっキラした顔見たら全力で否定したくなったけど、まぁ涼太のことだ」
「嬉しいっス〜!!!」

両手を振り上げてガッツポーズを取る黄瀬である。
全力で喜ぶ様子を唖然と見つめ、藍はふっと笑みを零した。
綺麗な顔立ちのせいで大人びて見えるけど、今は年相応の少年の笑顔だ。

箸を置き、身を乗り出して、丁寧にお願いした。

「黄瀬くん、仲良くしてやってね。
 蒼大ってば愛想ないから、友達出来るかすごく心配だったんだ」
「任せてくださいっス!お姉さん!」

ピッと調子よく親指を立てる黄瀬。
サマになっててカッコよくて、おかしい。

藍は残っていたおかずを一気に掻きこみ、お味噌汁で飲み下した。
お腹いっぱい、ごちそうさま。

「よっし、黄瀬くん。お近づきの印にゲームでも一緒にやろっか!」
「いっスね。負けないっス」
「藍!その前に皿洗って来い」
「はぁい」
「あと涼太、今日はうちに泊まってけ」
「いいんスか?」
「もう遅いしな。家に連絡入れとけよ」
「了解っス!」


グッド・フレンド
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