W a l k t h e T a l k # 0 2


欠伸まじりに校門をくぐる。
見知らぬ女の子から朝の挨拶、おはよっス・・・とおなざりに返事をした。何せ眠い。
入ってすぐの掲示板に新勧のチラシがびっしり貼ってあるのを横目に、靴を脱いで靴箱へ・・・と、そこで黄瀬は動きを止めた。

靴箱の前に一人の男子生徒が立っている。
しかも黄瀬の靴箱の真ん前。

「大鳥君、おはよっス」

声を掛けると、クラスメイトで席が前の大鳥蒼大が振り返った。

「・・・はよ。これ」

無愛想な挨拶と共に、蒼大が黄瀬に向かって手を出す。
その手に握られているのは、ファンシーな封筒。一目でラブレターと分かるシロモノ。
黄瀬は思わず身を引いた。

「大鳥君・・・気持ちは嬉しいけど、それは受け取れないっス」
「ふざけんな、どうしてオレがお前に手紙渡すんだよ」

冗談も大概にしろとばかりの目つきで睨まれ、更に腕を掴まれて無理矢理手紙を握らされた。

「オレの靴箱に入ってたんだよ、お前宛のだ」
「ああ・・・なるほど」

黄瀬と蒼大は出席番号が並んでいる。
当然靴箱も並んでいて、黄瀬へのラブレターが蒼大のところに入ってしまっていたというわけだ。
ありがとっス、とお礼を言って、黄瀬は自分の靴箱を開ける。
手紙が雪崩落ちてくることはなかったが、それでも何通か入ってて、慣れた手つきで回収。
そのままなんとなく蒼大と一緒に教室へ向かった。

並んで歩きながら、蒼大がチラっと黄瀬のバッグを見る。
・・・はみ出ているラブレター。

「大変だな、モテる男は」
「・・・口調に全然心こもってないっス」

全くの他人事口調だ。否、むしろニヤニヤ笑っていて、からかっているようにしか見えない。

「悪い悪い、けど本心だぜ?」
「大鳥君もモテそうっスよね」

身長は、黄瀬と比べればまあ低いが、そこそこある。
顔も、黄瀬に比べればまあ劣るが、そこそこ整っている。
体育の時間で一回だけペアを組んだが、運動神経も、黄瀬には及ばないが、いい方だと思う。

イヤミのような評価だが、真実だから仕方ない。
そして黄瀬の台詞に、楽しそうに笑う蒼大。

「まあな、中学の頃はそれなりに」
「・・・?今は?」
「今はお前のおかげで、全然だ」
「スミマセンっス・・・」

どうやら黄瀬が目立ちすぎて、その陰に隠れてしまってるらしい。
笑顔全開で『全然』と言われても、逆に怖い。
つい謝る黄瀬だったが、蒼大はひらひらと手を振った。

「気にすんな・・・ってか、むしろ感謝してる。ありがとさん」
「感謝っスか?え、何で?」
「・・・お前、その『っス』やめろ。鬱陶しい」
「ひどっ・・・!」

蒼大の言葉に傷つきつつも、黄瀬は首を傾げる。
『感謝してる』とはどういうことだろう。

「思ってもない子から告白されるって、しんどくね?」
「んー、まあそうっスね」
「・・・『っス』」
「今のはわざとっス」
「ほーう」

蒼大が手に丸めて持っていた雑誌で、パコンと額を叩かれた。結構な強さで、マジ痛かった。
でもなんか楽しい。
4月の入学式で知り合って以来、出席番号が近いから接する機会はそれなりにあって。
印象としては、いつも何かの雑誌を読んでて話し掛けても上の空、無愛想なヤツって感じだったけど、こうして話してみるとそうでもないんだな。
まさかの恋バナ。

「大鳥君は、彼女いないんスか?あ、これ口グセだから勘弁して」
「・・・お前は?いないの?」
「今はいないっスねー、友達ならたくさん」
「あっそ」

実は蒼大が黄瀬に「彼女いないの?」と聞いた瞬間、道行く女子に緊張感が走ったのだけれど、まったく気が付いていない黄瀬に呆れる蒼大だった。
丁度そこで教室に到着。会話が途切れる。
席について、蒼大は背中を向けてしまった。いつものように雑誌を広げて、俯いて読んでいる。

つまらない。
折角話が面白くなってきたのに。

黄瀬は蒼大の座っている椅子の背もたれを掴んで、ガタガタと揺すった。

「大鳥くーん、彼女いないんスかー?」
「揺らさなくても聞こえてるって。付き合ってる子はいないよ」
「・・・と言うと?」
「好きなヤツはいる」
「マジっスか!?」
「・・・デカい声出すな」

うんざりしたような蒼大の声を丸無視して、黄瀬はガタガタと蒼大の椅子を揺らしまくる。

「誰誰、誰っスか!?」
「・・・何でそんなに興味津々なんだよ」
「だってなんか・・・楽しいっス!」
「・・・娯楽か。そんな態度の奴には教えてやんね」
「真面目に聞くから!」

何故だか俄然必死の黄瀬。
蒼大に向かって言った台詞に嘘はない。
本当に楽しかったんだ、だって蒼大は全然そういう話に興味なさそうだし。
なのにしれっと話してくれる。
面白い。蒼大との会話が。

そんな黄瀬の気持ちも知らず、蒼大は素っ気なく答えた。
でもなんだかんだで返してくれるから、意外に面倒見がいいのかもしれない。

「お前の知らないコ」
「そんなぁ・・・じゃあどんな子なんスか?」
「キっツイ性格してて、料理が・・・」
「上手なんスね、ギャップ萌えってヤツっスね」
「いや、壊滅的」
「どこがいいんスか!?その子の!?」

さっぱり分からない。
見た目がめちゃくちゃかわいいんだろうか。
そんな黄瀬に、蒼大は肩越しに振り返って、ニッと笑って見せた。

「常に上を目指す姿勢」

思わず瞠目する黄瀬。

カッコいい。
笑った蒼大の顔が、めちゃくちゃカッコ良かった。
テレもせず、堂々と言い切ったのがまた清々しい。

「憧れるだろ、そういうの」
「・・・そうっス、ね」
「それ料理に関しちゃオレが出来るし、問題なし」
「えっ、料理できるんスか!?」
「クラスの女子よりうまいぜ、多分」

意外で新たな一面にいちいち驚いてしまう。
知り合って約1週間、急接近できた気分で、黄瀬はうきうきと訊ねた。

「大鳥っち、部活は?」
「大鳥っち!?」
「あ、オレ、尊敬するヤツはそう呼ぶんス」
「・・・変わってんな。そういう時は普通名前を呼び捨てだろ?」
「じゃあ大鳥っちはオレのこと『涼太』でいいっスよ」
「部活は入らない、帰宅部だな」
「スルー!?」

お近づきの一歩とも言える互いの呼び方は華麗にすっ飛ばされたが、部活の答えは返ってきた。
その回答に不服を漏らす。

「帰宅部・・・勿体ないっスね。運動神経よさそうなのに」
「家の手伝いあるからな。それに帰宅部の方が趣味に没頭出来るし」
「趣味?」

これ、と蒼大は机に広げていた雑誌をバサッと黄瀬に向かって投げた。

「・・・なんスか、これ」
「数独。オレ、パズル好きなんだ」
「・・・全く共感できないっスね」
「楽しいぞ、頭使うの」
「オレは体動かす方が好きっス」
「ふーん・・・他には?」

聞き返されて、思考停止。

「・・・は?」
「お前は部活何に入んの?趣味は?好みのタイプの女子は?」
「・・・!オレは、」
「なーんてな、答えなくていいわ。オレばっかり質問攻めされたから、返してみただけ」
「ひどっ!ひどいっス!」

オレはもちろんバスケ部っスよ!でもってカラオケが好きっス、あっ大鳥っち、今度一緒に行こう!あと好きな女の子のタイプは・・・立て続けに自分アピールしてたら、パズル雑誌で顔面を塞がれた。

「わっぶ!何するんスかっ・・・!」
「はい、ストップー。そろそろ教室の空気がヤバくなってきたー」

蒼大の台詞に、雑誌をどかして教室を見渡してみれば、クラスの女子の目が爛々と光っていた。
黄瀬と目が合いそうになると、全員そろって顔を逸らす。

蒼大が声を小さくして、こそっと囁いた。

「いやー、注目度満点だね」
「・・・ごめん」
「謝る理由がさっぱり分からねえよ。オレは随分得したぜ?
 大鳥蒼大には好きなコいるってアピールできて、これで女子はオレを恋愛対象として見ない」
「・・・もしかして、オレへの注目を利用したんスか?」

女子が黄瀬の言葉に耳を傾けている、その状況で、わざわざの恋バナ。
蒼大は黄瀬の問いに頷きこそしなかったが、指先でトントンと己のこめかみを突いた。

「言ったろ?オレも中学の時はそれなりにモテたって。
 でもって思ってないヤツに好かれるのはしんどいって」

だからこそ黄瀬に聞かれるままに答えたのだ。
まあクラスの女子はお前の言動を注視してただけで、オレのことには興味なかったろうけど。
それでも多少は予防線にはなったろ、と蒼大は笑う。

なんとも小憎らしい笑顔である。
黄瀬とはまた違った魅力がある、これなら10人中8人は黄瀬を選ぶだろうが、残り2人くらいは蒼大になびきそうだ。

キーンコーン・・・とチャイムが鳴って、担任が教室に入ってきた。

蒼大が前を向いてしまい、黄瀬は唇を尖らせる。
HRが始まっても、小声で文句。

「ひどいっス。オレは大鳥っちと話すの、楽しかったのに」
「悪かったよ、カラオケ付き合うから許せ。涼太」
「・・・それならいっスよ」

結局、蒼大の良いように踊らされてる気もするが、それはカラオケで発散しよう。


セット・アップ
キミとはうまくやれそうだ



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