W a l k t h e T a l k # 0 1


大鳥家はお好み焼き屋を経営している。
誠凛高校のすぐ傍で、夕方の時間帯は学生で混み、夜は近隣の家族連れや仕事帰りのサラリーマンでそこそこ賑わう。

陸上部に所属している藍は、部活後に帰宅。
その頃には大体学生は捌けていて、年齢が高めの客層の中、勉強と部活の疲れを微塵も見せずにテキパキお手伝い。いわゆる店の看板娘ってやつ。

未成年なので、そんなに遅くまでは手伝えない。
大体夜の8時くらいには引き上げる。
体中に染みついた食べ物のにおいをお風呂で洗い流して、ほっと2階の居間で一息・・・そんな毎日。

今日もお風呂上り、濡れた髪をタオルでわしわしと拭きながら居間の椅子に座った。

「蒼大、お腹空いたぁ・・・」
「今持ってくから、大人しく待ってろ」
「今日のご飯は?」
「魚の煮つけ」
「何の魚?」
「カレイ」

実に所帯じみた姉弟の会話。

一つ下の弟・蒼大はお店の手伝いはしない代わりに、家事全般をこなしている。
そのため料理の腕は弟の方が遥かに良い。お好み焼きなら、藍の方が上手く焼けるのだけど。

姉のために魚を皿に盛る弟の背中を見つつ、あ、と話題を一転させた。

「ねぇねぇ、どうだった?入学式」
「普通」

会話終了。

「そんな無愛想だと、友達できないぞー・・・」
「余計な心配しなくてよし。はい、メシ」
「いっただきまあす」

蒼大も大概淡白だが、藍も藍で切り替えが早い。
弟に友達ができるかの心配は、カレイの煮つけによって、あっという間に藍の頭から消え去った。

もぐもぐと白米と魚を交互にかきこむ藍。
向かいに座って、パズル雑誌を広げ黙々と解いている蒼大。

「ねぇ、蒼大」
「ん?」

雑誌から顔を上げず、蒼大が聞き返す。
藍は味噌汁を一口すすって、訊ねた。

「何で、誠凛受けなかったの?」
「・・・」
「お姉ちゃん、さみしーい・・・」
「どうせ学年違うから、一緒だろうが別だろうが関係ないだろ」
「そうだけどさー」

納得いかない様子の藍。
でもご飯の手は止めない藍。

さらさらとパズルの空欄を埋めながら、蒼大は答えた。

「同中のヤツは大体誠凛だからさ、違う環境に興味あったんだよ」
「・・・それ、もう何回も聞いた」
「何回も答えたんだから、いい加減納得してくれ」
「蒼大が新しい友達連れてくるまで、納得しなーい」

この春からピッカピカの高校1年生な蒼大。
歩いてすぐの誠凛高校ではなく、隣県の高校に入学。

別に蒼大は蒼大が行きたい高校に行けばいい。
それは弟の自由・・・なのだが、いかんせん、何の前触れもなくある時突然「オレ、海常ってとこ通うから」と、事後報告。
弟の姉離れを感じて、未だにそれを根に持っている藍だった。

(蒼大は無愛想だもん、本当に友達出来るのかな)

割とモテるので、そっち方面は心配していない。
というか、弟には好きな人がいて、きっとそれも誠凛を受けなかった理由の一つってことは知ってる。
無愛想だけど、一途で頑固なんだ。

ごちそうさま、と手を合わせて食後の挨拶をすると、藍は食器を持って立ち上がる。

「ま、蒼大なら大丈夫か・・・私よりもずっと器用だし」
「そういうこと、心配するな・・・ってか、藍はいい加減弟離れしろ」
「してるよー、いっつも頼りにしてる」
「知ってる」

矛盾を口にしつつ皿洗いを始める姉の背中を、弟は複雑な気持ちで見つめた。

別に姉離れとか、そういう理由で違う高校を受けたわけじゃない。
蒼大には理由があっての高校選択で、むしろどちらかと言えば姉のことは姉以上に心配している。
しっかりしてるようで抜けてるから。
オレがいなかったら、一体誰に英語の辞書を借りる気だろう(冗談だ)。

(まあ大丈夫か)

自分と違って、姉は人懐こい。
たまに校内で見かける時も、いつだって友達に囲まれて笑ってる。
好きなヤツがいて、そいつにもきっと友達としか見られてないって気にしてる。
大らかでサバサバしててお調子者で、実は寂しがり屋。

「姉ちゃん」
「ん?」
「早く彼氏作れよ」
「うっさい」

片や「友達作れ」、片や「彼氏作れ」。
なんだかんだでお互いを心配してる仲のいい姉弟だった。

「あ、そうだ」
「今度は何?」
「高校入学おめでとう」
「・・・サンキュ」

まず先にそっちが先だろう、と思いつつ。


アット・ホーム
家に帰れば、キミがいる



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