D a s h i n g A w a y # 0 2


最初に会ったのはいつだったっけ。
リアカーに乗せてあげたから、多分どっかの練習試合に行く途中。
その後は誠凛のI.H.都予選を見に行った時に、ちらっと見かけたくらい。

たったそれだけなのに、何故だか忘れられない。
目に焼き付いて、離れない・・・ってのは言いすぎか。
けど例えば、どんな暗闇でも同じ空間にいたのなら、きっと見つけられるくらいには気になってる。


*


誠凛との合同練習後、夕食までは自由時間・・・と言ってもそんなに時間はないが、だからこそ大事なリフレッシュタイム。
一番近くのコンビニまで夜食を買いに、宿を出た。
出てすぐが防波堤になっていて、砂浜に下りれば海は目の前。
ただまあ今は歩きやすいコンクリの道を行こう。

海は広いな大きいな、自然と気分も大きくなる。
ついつい鼻歌を歌って・・・と、砂浜に人影が見えた。
暗いからよく分からないけれど、誰かがランニングしている。
大方、誠凛か秀徳か、どちらかの部員が走り込みでもしているのか。

(おーおー、熱心なことで)

休憩時間はちゃんと休まないと、そう思いつつも興味本位で人影を横目で眺めつつ歩く。
小さな影だ、大坪や緑間ではない。もちろん火神でもない。
黒子か・・・?と目を細めて注視し、人影が何者なのかが判明すると、高尾は面白くなって防波堤の上から声を掛けた。

「おーい、そこのランニング中のコー」

高尾の呼び声に、ランニング中の人影は走りながら辺りを見渡す。
中々高尾を見つけられず、キョロキョロしてる姿が可愛かった。

「こっちこっちー」

手を振って、防波堤から身を乗り出す。
すると向こうが高尾に気が付いて、進路を変更した。
砂浜を走ってるとも思えない軽やか動きだ。

(そういえば・・・)

最初に会った時も綺麗なフォームだと思ったっけ。
すごく前のことが、鮮明に脳裏に甦った。
・・・なんて思い出に浸る間もなく、『彼女』がすぐ近くまで走り寄ってくる。

防波堤の下から、ひらひらっと高尾に向かって手を振った。

「久しぶり、タカオくん」
「久しぶり。誠凛の合宿に参加してんの?」
「うん、ボランティア」
「マネージャーじゃないんだ」
「違うよ。私、陸上部所属だもん」

なるほど、一つ謎が解けた。
どうりで綺麗なフォームなわけだ。動きに無駄がないんだ。
しかし陸上部所属なのに、何故バスケ部の合宿に参加しているのだろう。
するとまるで高尾の疑問が届いたみたいに、彼女はおかしそうに笑って教えてくれた。

「バスケ部のカントク、親友なんだ。だからお手伝い」
「・・・カントクさん?」
「うん。誠凛2年・相田リコ」
「・・・もしかしてキミ、2年生?」

驚いて訊くと、高尾を見上げる彼女の目がクルリと閃いた。

「誠凛2年、大鳥藍」
「センパイ・・・すか」
「ほらほら、センパイに自己紹介してよ。タカオくん」

わざとおどけたその様子は、明らかに面白がっている。
バスケ部員の誰かに聞いたか、データを見たか・・・なんにしても高尾の名前と学年は、一番最初に出会った時から知っていたと思うんだ。
それっくらいに笑顔が悪戯っぽくキラキラと光ってる。

「秀徳1年、高尾和也」

若干『1年』の部分だけ強調してみた。
少し先に砂浜に下りる階段があって、高尾はトントンっと三段飛ばしくらいで駆け下りる。
階段の下で藍が首を傾げて待っていた。

「そういえば、どこか行く途中?」
「コンビニ。夜食買いに」
「あっ、私もおやつ買いに行いきたいんだっけ」
「一緒行く?」

ラッキーとばかりに誘ってみるが、藍は残念そうに肩を竦めた。

「宿に戻って、夕食の手伝いしなきゃ」

それは残念。

「じゃあオレが買ってこよっか?」
「え?」
「お菓子。メシ食った後じゃ夜遅いし、危ないっしょ」

あーそれに付き合うってのもアリか。
なんて考えながら藍の反応を伺うと、彼女はうーんと首を捻って考え込んでいる。

「いいのかな?パシリだよ?」
「パシっ・・・藍さん、言うことキツい。この前も思ったけど」
「そうかな?ちゃんと言葉は選んでる」
「まぁ間違ってはないか・・・で?」
「・・・お願いしよっかな」

ポケットからお財布を取り出す藍。
それを押し止めて、高尾は言った。

「それは後でいっす。リクエストは?」
「んーと、チョコレート・・・あっポッキーがいい。あとしょっぱいのも」
「定番でオッケ?」
「んー、高尾セレクトを楽しみにしてる」
「うわあ、期待されちゃった・・・」

期待されるのは嫌いじゃない。
高尾は携帯を引っ張り出した。

「んじゃメアド教えて。買ってきたら連絡入れっから」
「ん、了解。えっとメアドメアド・・・」
「赤外線は?」
「待って待って」

藍もあたふたと携帯出して、赤外線通信を起動。

「よし、届けー」
「きたきた、登録っと」

メアドゲット、と高尾はにんまり笑う。
いい展開だ、今はこれで充分。

高尾が今しがた下りてきた階段を、二人で上る。
一緒に歩いた距離は、距離なんて言えないくらい短くて、すぐにお別れ。

「じゃあ申し訳ないけど、よろしく。高尾くん」
「はいよ、任せて」

ありがとうとお礼を叫んで、藍は宿へ戻っていく。
やっぱり綺麗なフォーム。
ついつい見とれていたら、宿の一歩手前でこっちを振り返った。
藍が大きく手を振ってる。

高尾が振り返すと、彼女はぴょんと一つジャンプして、薄闇に姿を消した。
良くも悪くも年上を感じさせない親しみやすさに、頬が緩む。
携帯をポケットに放り込んで、高尾もコンビニへ足を向けた。

海風が気持ちいい、鼻歌が自然と零れる。

(またあとで、と)


See You
狙った獲物は逃がさない



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