D a s h i n g A w a y # 0 3


よいせっと洗濯カゴを持ち上げる。
中には色とりどりのTシャツ、そしてパンツ、エトセトラエトセトラ。
もちろん部員の洗濯物だ。
量が量なので、乾いているとは言え、意外と重たい。

(指千切れる・・・!)

そうは言っても放り出すわけにもいかない。
本当に指が千切れるわけはないんだから、我慢我慢・・・と廊下を歩いていたら、後ろから声を掛けられた。

「藍さん、見っけ・・・って、うわっ、それ持とうか?」
「あ、高尾くん。平気だよ、部屋まであとちょっと〜」
「じゃあこれと交換」

そう言うと、高尾は洗濯物の上にポンッとビニール袋を置いた。
ビニールは軽くて、重みはそんなに変わらない。
あ、頼んだお菓子・・・と一瞬気を取られてる間に、高尾に洗濯カゴをもぎ取られた。

「はい、お菓子受け取って」
「・・・ありがと、持ってくれて。あとお菓子も」
「どういたしまして。部屋は?」
「こっち」

ビニール袋を提げて、藍は高尾を先導した。
ちらっと振り返って、高尾が付いてくるのを確かめる。

(さっすが男の子、力あるなあ・・・)

カゴを軽々と持って、藍みたいによろめかない。
持ってるのが洗濯カゴなのが、所帯じみてて妙に似合っている。

振り返った時、目が合った。

「どうかした?」
「高尾くん、お風呂上り?」
「分かる?」
「うん、男前度が上がってる」
「ふはっ・・・何ソレ・・・!」
「あ、部屋ここ。リコ、ただいまー」

古びた戸をガチャリと開けて中に入っていく藍。
後に続いていいものか、高尾は藍の後ろから中を覗きこんだ。

(あ、カントクさん)

以前一緒にお好み焼きを食べたことがあるから、既に顔見知り。
あの時のお好み焼きはすごかった・・・思い出して、うぐっと胸が苦しくなる。

リコも高尾の姿を認めて、あらと目を丸くした。
ちなみにノートとペットボトルを手に持って、リコはドアのすぐ前にいた。
タイミングが悪ければ、直撃していたくらいの距離だ。

「おかえり、藍。あと秀徳の・・・えーと高尾くん?」
「ただいま。そして、お客さま〜・・・って、リコ出かけるの?」
「2年でミーティングよ」
「え、もう?私、洗濯物畳まないと・・・」
「終わったら来なさい。キミは良かったら、中入ってお茶でも飲んでって」

藍を軽くあしらって、リコは高尾に言った。
どうやらリコもちゃんと高尾のことを覚えているらしい。
仮にも女の子の部屋に、男子を(しかも他校の)招き入れることに抵抗がない。

「いいんすか?」
「いいわよー、藍に頼まれたんでしょ。お菓子買って来いって」
「『来い』なんて言ってなーい」
「結果としては同じ。じゃあ藍、洗濯物よろしくね」
「はぁい、いってらっしゃい」

リコと入れ違いに、藍と高尾が部屋に入る。

「ここに置いてくれる?」

言われたままに、座卓の傍にドカッと洗濯物カゴを置く。
大きな音に藍は顔を顰めた。

「重かったね、ごめんね」
「大丈夫っすよ」
「でも手のひら、真っ赤だよ」
「藍さんもね〜」

言われて手のひらを広げてみれば、確かにまだ少し赤い。
じぃっと高尾の手を見つめたら、目線に負けたのか、苦笑して高尾も手を出す。

「高尾くんの方が赤い」
「そりゃあね、今の今まで持ってたからね」

とは言え、どんぐりの背比べ。
宙に4つの手のひらが並んで、しかも4つとも赤く染まってて、なんだかおかしい。
藍が思わず吹き出した瞬間、爪の先が少しだけ掠った。

「あ、ごめ・・・」
「ヘーキ。それより早く良くなりますよーに!」

謝る藍を遮って、高尾が藍の手のひらに、ぽんっと自分の手のひらを重ねた。


*


「カントク、もう始めてるぞー」(日向)
「あれ、大鳥は?お菓子持ってくるって言ってたんだが」(木吉)
「あの子は部屋で、秀徳の高尾くんと洗濯物畳んでるわ」(リコ)
「え、秀徳の・・・?」(伊月)
「もしかして二人っきり?ちょ、それ・・・!」(小金井)
「い、いいのか・・・?」(土田)
「藍相手にウフフな展開に持ち込めるんだったら、それこそ彼氏にでもなって欲しいわよ」(リコ)
「・・・だな」(日向)



Don't Worry
ダイジョーブ



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