Waiting for You...


部活が終わって、家に帰ってきて、飯食って、風呂入って。
見たいテレビも見終わって、今はゲーム中。

傍らの携帯をちらりと見やる。
着信のランプは光っていない。
それでもつい手を伸ばして、新着確認してしまう。

(電話来ねーなー・・・)

メール画面を開くと、学校のダチやら先輩やら、中学の頃の懐かしい名前もある。
それらをスクロールして、一通のメールを開いた。

『ハッピーバースデイ、和くん。今日中に電話するね』

早朝ランニングが日課の彼女は、寝るのが早い。
それなのに日付が変わると同時に送られてきた。
素っ気ないとも取れる文章だけど、藍さんらしいと思ってしまうのは、惚れた弱みってヤツだろう。

メールを見てついニヤける高尾だったが、現状を思い出し溜息を吐き出す。
時計を見れば、間もなく23時。
いつもだったら、もうすぐ彼女が寝てしまう時間。

・・・電話はまだ掛かって来ない。

(忘れて、もう寝てんのかな)

女々しいと思いつつも、帰ってきてから何度も携帯を見直しては、溜息を繰り返している。

(待つってしんどい・・・)

そろそろ諦めて、思考を切り変えよう。
次の休みに会う約束をしてるから、その時に電話して来なかったと拗ねてみせて、しょげたところでハグでもすっか・・・と若干邪なことを考えていたら、携帯が震えた。

着信履歴には、待ち望んだ彼女の名前。

「・・・もしもし?」
『ハッピーバースデイ!和くん!」
「ふーん、他に言うことは?」
『遅くなってごめん・・・!』

どうやらちゃんと反省してるみたいだ。
甘いとは思うけど、声が聞けた段階でもう許す気になってる(というか、元から怒っちゃいない)。

「忘れたかと思ってた」
『そんなわけなーい!家の手伝いしてたら遅くなっちゃって・・・』
「でもってこのまま忘れたら、次のデートの時にどうしてやろうかって考えてるとこだった」

冗談ぽく言ったら、携帯から藍の笑い声が聞こえた。

『もちろんなんでもするよ?誕生祝いだもん』

思わず絶句。

「・・・えー、っと。もしかしてそれがプレゼント、とか?」
『あはは、ちゃんとモノも用意してあるから、お楽しみに』

いや、モノとかいいから・・・ってか、藍さん何してくれんの・・・!?
心中で動揺しつつも、平静を装う。

「・・・マジ、楽しみにしてっから」
『うん、よーろこんでー』

だから何を!?とまたしても心の中で突っ込んで、高尾は携帯の向こうに気が付かれないよう、静かに深呼吸した。

「藍さーん・・・」
『ん?なぁに?』
「・・・ありがと」
『それは私の台詞だよ。生まれてきてくれて、ありがと。和くん』

照れくさそうな声が、耳にくすぐったい。

「藍さん、そろそろ寝る時間だけど、平気?」
『んー・・・もう少し話してたいような。眠いような』
「・・・眠いのな」
『・・・ごめん、がんばる・・・』
「いーよ、無理しないで。声聞けたし、それで充分」
『・・・あいがと・・・』

最早ろれつが回っていない。
電話を掛けてきた時はあんなにテンション高かったのに、ものの数分で睡魔に襲われてる藍を心底かわいいと思いつつ。

「おやすみ、藍さん」
『・・・おやすみ、和くん。週末まで・・・待ってて、ね・・・』
「はいはーい」

最後は寝言に近かったが、『なんでもする』って言ったこと、ちゃんと覚えててくれるだろうか。
多少不安だが、それはさておき週末が楽しみだ。

「おしっ、俺も今日は早く寝よっと!」

携帯を放り投げて、自らもベッドにダイブした。


Waiting for You...
君に会うため、生まれてきた僕だから



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