きみとわたしをつなぐ糸


(一番最初はいつだったっけ。初めて彼の誕生日を知ったとき・・・)

HR後、部活に向かう途中。
廊下で偶然一緒になって、抜き打ちの英語のテストの話なんかをしながら部室棟に向かっていたら、すれ違いざまに同級生が伊月に「おめっと」と声を掛けてきた。
何がおめでとうなんだろうと首を傾げる藍だったが、同級生との会話から察するにどうやら誕生日みたいだ。
じゃーなと手を振って帰っていく同級生に、藍も手を振り返すと、伊月を見上げて訊ねた。

「伊月、今日誕生日なの?」

藍の問いに頷く伊月を確認して、藍は慌ててバッグの中を探る。

「うそっ、知らなかった・・・!何かお祝い・・・!」
「いいよ、大鳥。気持ちだけで充分だからさ」

バッグに手を突っ込んで一生懸命『お祝い』を探す藍に、伊月は苦笑した。
前を見て歩かないと危ないと注意しても、藍は聞かない。

「うーん、飲みかけのお茶ならあるんだけど・・・あっ!」
「ゴミでもあった?」
「そんなものあげるわけないってば。いいから、ちょっと待ってて・・・!」

言うなり陸上部の部室へ駆け込む藍。
扉の向こうにその姿が消え、さてどうしたものか、練習があるから長いこと待ってはいられないし・・・と考えあぐねている内に、藍はすぐ出てきた。
バッグを部室に置いてくればいいのに、余程慌てていたのか、肩にかけたまま。
手に持っていた何かを、伊月に向かって差し出した。

「これ、使って」
「・・・靴紐?」

藍が持っていたのは、真っ白な靴紐だった。

「ちょうどシューズを新調したばっかりで、ね」

私、オシャレ靴紐派だから・・・と言うわけで、どうやら既製品の靴紐が余っていたようだ。

「余りものには福があるって言うでしょ?」
「それを言うなら、残りものには、だろ?」

そっか、と藍は照れくさそうに笑う。

「ハッピーバースデー、伊月。部活ファイト!」


*


それからというもの、藍は毎年伊月の誕生日に靴紐をプレゼントしている。
伊月は靴紐にはあまりこだわりがないようで、どんなものでも大抵使ってくれた。
だけど去年にゴールドの靴紐を贈った時は、流石に困った顔をしていて、今年はそのリベンジ。

「いーづき、ハッピーバースデー!」

言うなり、藍は伊月の目前に両手を突き出す。
若干寄り目になりながら、目を瞬かせる伊月。

「ありがとう、大鳥・・・って、え、2つ?」

伊月の言うとおり、藍は片手に一つずつ袋を持っていた。

「一つは伊月に。もう一つは私の。好きな方、選んで?」

白と黒の包み紙が、伊月の目の前でゆらゆら揺れる。
一つは藍のものになるということは、ピンクみたいな女の子らしい色という可能性もあるわけで。
去年のゴールドを思い出して、伊月の目が少し鋭くなる。

「イーグル・アイ、発動だ」

藍がおかしそうに笑って言う。

「大丈夫、今年はまとも。だと思う」
「信じるからな、その言葉」

そう言って、伊月は黒の包装紙でラッピングされた袋を選んだ。

「そっちを選びましたか、伊月クン」

にやにや笑う藍の顔が意味深で、伊月はその場で開封する。
だが中身を確認する前に、藍はぱっと身を翻した。

「その靴紐、強運を運ぶから。おめでとう、伊月!」
「え、ちょ・・・大鳥!?」

止める間もなく、藍は走って行ってしまった。
まるで一陣の風だな、と心の中で思って、伊月は袋をひっくり返した。

中から落ちてきたのは、インディゴの靴紐


*


ひゃー、はずかしかった・・・!

藍は校舎の角を曲がると、走る速度を落とす。
そうして握り締めていた白の包装紙をバリッと破った。
中を覗きこんで、思わずはにかむ。

手元に残ったのは、赤い靴紐


きみとわたしをつなぐ糸
糸をたどって、きみのもとへ



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