君が笑顔でありますように
魔物に取り囲まれて、地面に横たわるララを見つけたアーストは、さりとて慌てる様子もなく、いつも通りの堂々とした足取りで近づいていく。
魔物たちが威嚇をしてくるが、アーストが一睨みするとすごすごとその場を退き、森の奥へと駆け去って行った。
ララの傍まで辿り着き、静かに寝息を立てている彼女をじっと見下ろす。
アーストの視線を感じ取ったか、はたまた自身を囲んでいた魔物たちがいなくなってしまって肌寒さを感じたのか・・・ララは仰向けの体を守るようにくるりと丸くなった。
「・・・ララ、起きろ」
声を掛けても、うんともすんとも言わない。
軽く溜息を吐いてその場に腰を下ろすと、アーストはララが起きるのを待った。
乾いた風が木々の葉を揺らし、時折獣の遠吠えが響く。
あとはララの寝息以外、音のするものはない。
(・・・静かだ)
喧噪よりも静寂を好むアーストは、こうやってララが起きるのを待っている時間が嫌いではなかった。
部族間の争いが続く中、唯一心静かにいられる時間。
すうすうと寝ているララを見つめ、アーストは目を細める。
彼自身気が付いていないことだが、それは紛れもなく『ほほえみ』というものだった。
ララが見たらば、きっと驚いたろう。
彼女はいつも眉間に皺を寄せている友人を、心配しているから。
友が穏やかにいられるように、いつもそのためだけに戦っているから。
残念なことにララが目覚めるといつもの仏頂面に戻ってしまうから、彼女がその笑みを見ることはないのだけれど。
「・・・感謝している」
そっと額を撫でると、ララはようやく覚醒した。
うーん・・・と唸りながら体を更に縮こまらせ、その後大きく伸びをする。
ごろんと寝返りを打って、こちらを向いた。
ぱっちりと目が開かれ、不思議そうな顔をしてアーストを見上げている。
「アースト・・・?何か言った・・・?」
「いいや。起きろ、と声を掛けたが、全く起きる気配がなくてな」
「・・・ごめん」
決まり悪げに前髪をくしゃりと掻き上げて、ララは体を起こした。
「私を呼びに来たってことは、戦況が悪化した?」
「・・・ああ。すまないが、力を貸してくれ」
近くの木に立てかけておいた大剣を、よいせと背負うララ。
「お安い御用。蹴散らしてくるよ」
さも当然と言ったふうの頼もしい台詞とは裏腹に、大剣に潰されてしまいそうな有様だが、アーストは彼女が『強き者』であることを知っている。
「・・・頼りにしている」
アーストがそう言うと、ララは嬉しそうに笑った。
君が笑顔でありますように
この先、君を『友』と呼べなくなっても
[ 風の揺籃歌 TOP ]
[ MAIN ]