ここはきみだけの特等席


「…名前」

私の名前を読んで、黙りこんでしまった新八。
いつもは元気にふりふりしてるはずの尻尾も自信なさげに小さく揺れてるだけ。
どうしたんだろう?

「新八?」

近づいてその顔を覗き込めばほっぺは見たこともないくらいに真っ赤だった。
えっ、もしかして風邪?
びっくりしてその額に自分のを重ねてみた。

「おわっ!」
「動かないで!」
「なっ、ちょ、おい?ど、どうしたっ!?」
「あれ、おでこは熱くないみたいだね」
「俺は風邪なんかひかねえよっ」
「うん、まあ…馬鹿は風邪ひかないって言うしね」

風邪じゃないことに安心して、新八の首のあたりを撫でてあげた。
犬のときは気持ち良さそうな顔するくせに、人間になってるときはどうしていつもこんな微妙な顔しかしてくれないんだろう。
ぐっと眉間にしわをよせて、なにかを我慢してるみたいなそんな顔。

「気持ちよくないの?」
「いや、うん、そうじゃねえけど、」
「はっきりしなさい馬鹿わんこ」
「…馬鹿っていうんじゃねえよ」

返してくる言葉さえちょっと元気がなくて、相変わらず困った顔をするだけ。

「新八?」
「いや、あのよー…」
「うん」
「撫でられるのより、枕が欲しいっつーか、」
「枕?」

首をかしげて言葉の続きを待つ。

「だ、だから!」
「うん?」
「名前の膝枕、すきなんだよ」

視線をそらしてぽつりとこぼされた言葉が、あまりにも新八に似合わなくて、ぱちぱち瞬きを繰り返した。

「…なんだよ?」

それがまるで拗ねてる子供みたいで、吹き出してしまう。

「ふはっ!」
「おい!笑うんじゃねえよ!」
「だって、膝枕って、…シベリアンハスキーのくせに!」
「んな笑うことねえだろ!」

顔をさっきよりも真っ赤にして怒る新八の髪をわしゃわしゃ撫でまわす。
触れた耳がそのたびにぴくぴくと小さく揺れて、それがかわいくてかわいくて、そこにキスを落としてあげる。

「うわあっ!」
「ほら、おいで」

キスに驚いて離れてしまった新八を呼びよせるように、自分の太股をぽんぽん叩く。
それにまたぴくりと新八の耳が小さく動いた。

「膝枕して欲しくないの?」
「してほしい!」

うれしい気持ちを隠しきれてない瞳が私を見つめたままきらきら輝く。
こんなに大きな体で私の膝枕が好きな甘えんぼ。
見た目からは想像できないくらいにはずかしがり屋なわんこがかわいくていつもちょっとだけ意地悪しちゃう。

「ん〜やっぱ、名前の膝はさいこー、だな、」

足に頭を乗せた新八の髪を撫でてあげれば、気持ち良さそうに目を細めて、今にも眠っちゃいそう。

「寝てもいいよ」
「ん、でも、勿体ねえ…」
「寝て、起きても、また膝枕してあげる」
「約、そく、…だぞ」

ふにゃりと笑って、その目はすぐに閉じられてしまった。

「これがギャップ萌えっていうのかな」

膝の上で気持ち良さそうにすぴーと寝息を立てる大型犬にどんどん心奪われていくのを自覚していく。
悔しいから言ってなんかあげないけど。



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