T w i n k l e S t a r s


「何してんの?」

前触れもなしに背後から声が掛かった。
振り返れば、数メートル離れた所にゼタが立っている。
質問に答えようとしたライルは、彼女の姿を見て軽く目を瞠った。

「どうした、そんな恰好して?」

逆に問い返すと、ゼタは自分の姿を見下ろす。
身に纏っているのはCBの制服・・・ではなく、ノーマルスーツ。
ゼタは小首を傾げて答えた。

「少し外に出ようかと思って」
「・・・外?」

オウム返しのライルに、にっと目を細めてゼタは頷く。

「ずっとラボに籠ってたから、疲れちゃった。気分転換」

さも疲れたように首をコキコキと鳴らすゼタ。

現在プトレマイオス2は、CBの秘密ドックに停留している。
ガンダムとトレミーのメンテナンスのためだ。
・・・整備士でもあるゼタは必然、作業に駆り出されるわけで。

首筋をマッサージしているゼタに、ライルは溜め息をつきつつ忠告した。

「休憩時間は、ちゃんと休めよ」
「気分転換だって。
 部屋にいたって、どうせ端末いじっちゃうんだもの」
「・・・職業病だな」
「そうかもね。
 それよりロックオンは?何してたの?」

ゼタは矛先をライルに向ける。
取り合わない彼女に苦笑しつつ、ライルは悪戯っぽく言った。

「アニューのこと、思い出してた」

途端にぱたりと口をつぐむ。
あんまり素直な反応だったので、ライルはつい吹き出してしまった。

「気にするな・・・いつものことだ」
「・・・それはフォローのつもり?」
「さぁ?」

くくっと喉の奥で笑うライルを、ゼタは軽く睨め付けた。

「気分転換必要なのは、そっちじゃん」
「かもな」
「じゃあ一緒に来る?」
「・・・着替えてくる」
「待ってるよ」

ゼタの言葉にひらひらと手を振って、ライルはその場を後にした。


*


数分後、デッキに佇む二人の姿があった。
特に言葉もなく、黙って宇宙の闇を見つめている。

数えきれないほどの星粒が燦然と光を放っていた。
けれど闇を照らし切るには、あまりにも遠い光だ。

自然と二人の目は一つの星へと向かう。
・・・青く光る星。

ゼタがぽつりと呟いた。

「地上に下りてさ、建物だらけの街の中歩いてても全然感じないけど。
 こうして見てると・・・あの星は生きてるんだなって思うよね」

愛しむようなゼタの口調に、ライルはつと聞いてみる。

「・・・ゼタは地上が好きか?」
「それは宇宙よりもってこと?」
「争いの絶えないあの地が、好きか?」

言い直されたライルの問いに、ゼタはあやふやに笑う。

「好きだよ?・・・地上も、宇宙も」
「・・・欲張りだな」
「無いものねだりってヤツ。
 地上から空を見上げれば、宇宙に憧れる。
 宇宙から地球を見下ろせば、地上を恋しいと思う」
「・・・なるほど」

ゼタの欲張り具合を聞いて、ライルは軽く頷いた。
・・・わからないでもない。

「だから正直な話、どっちに居てもそんなに変わらない。
 どっちに居たって・・・満足できない」
「・・・」
「それなのに不思議なもんだ。
 空を見上げてる時も、地球を見下ろしてる時も・・・心は満たされた気持ちになる」

満足できないのに満たされるとは、矛盾した話だ。
そんなライルの思いが伝わったのか、ゼタは小さく笑い声を上げた。

「なんだろうなぁ・・・寂しさで満たされるのかな。
 その寂しさが、幸せだったことを思い出させてくれる、から・・・」

終わりの方は独り言に近かった。
細くなる語尾。
ゼタは再び黙って宇宙を見つめた。

「・・・人の心は宇宙に似てる、な」

ライルの呟きに、ゼタはくるりと目を動かした。

「・・・詩人だね」
「茶化すな」

じろりとゼタを見下ろすと、彼女は肩を揺らして笑いながら訊ねる。

「・・・その心は?」

どうやら懲りていない。
後ろから腕を伸ばして、がっしりと彼女の首に回した。
絞められそうになってゼタは慌てて身じろきするが、遅い。
身を固くして、それ以上絞められないようにするので精一杯だった。

少しだけ腕の力を緩めて、ライルは答える。

「『こんなにたくさん星が光ってるのに、闇は消えない』」
「・・・」
「願いも希望も、望む未来もあるのに・・・其処彼処に散らばっているのにな。
 闇は絶えない。あの星でも、争いは止まない。
 ・・・むなしいもんだ」

そうしてライルはメット越しに、自分の顎をゼタの頭に乗せる。
そのままぼんやりと地球を眺めていたライルだったが、ゼタが身動きしたので我に返った。
そう言えば腕を首に回したままだった。
苦しかっただろうかと慌てて体を離すライルに、ゼタが振り返る。

「ほら見てよ、ロックオン」

彼女の言葉の意味が分からず、ライルは訝しげに眉をひそめた。

「こうすると・・・地球を掬ってるみたい」

ゼタはまっすぐに腕を伸ばしていた。
緩く広げられた掌の上に、青い星が静かに浮かんでいる。

「こうすればいいんだよ。
 こうやって・・・光を掬えば、さ」

ゼタは笑顔で繰り返した。
釣られるようにライルも目元を綻ばせる。

「・・・そうだな」

頷いた額がゼタに触れ、コツリと小さな振動が伝わる。
・・・星が触れ合うような、微かな震え。

両腕を伸ばして、掬えばいい。
きらきらと輝く、願いの結晶のような星々を。


Twinkle Stars
そうしていつか、明るい光で満たされる日を・・・願って



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