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今年もまた、天選の儀が訪れようとしていた。のどかな街、ペスカルも例外ではなく、にわかに騒がしくなっていた。
「おい、アルダ!起きろ!もうすぐ時間だぞ!」
ある家の前で、赤髪の少年が、その家の二階に向かって叫ぶ。
「起きてるよ!ラノ、近所迷惑になるから、叫ぶのは止めて欲しいな」
その家の玄関から、青髪の少年が出てくる。ラノと呼ばれた少年は頭を掻いた。
「もうすぐ時間なのに広場にいないからてっきり寝てるかと思ったんだ」
「僕が君より起きるの遅いと思う?」
アルダは呆れた様に言う。ラノはため息を付いた。
「それもそうだな……。お前、俺と違って学校に遅刻なんかしないもんな」
「学校に遅刻して平然としてるのはどうかと思うよ……」
そんなことを話すうちに、二人は広場に着いた。広場には既に町中の人が集まっていた。
「お前が遅いから後ろの方じゃんか……」
「別に見えるから良いよ。最前列だと逆に見辛いし」
それでも尚、ぶつぶつ文句を言うラノを無視して、アルダは広場の中央にある時計を見た。天選の儀まで後僅か−。
今年は何処の街の誰が選ばれるのだろうか。去年はずっと遠方の地の街の少女だった。
天選の儀は不思議な事に、その街の広場の中心にまるでそこで行われているかの様に、その様子が映し出される。所謂、魔法によるものらしい。広場上空の空間を共有する魔法、という話だ。ちなみに、天選の儀は中枢都市、クレシェッタにて行われる。選ばれた者は、クレシェッタの広場上空に召喚される……らしい。
「実際に召喚されてみないと、多分実感湧かないよなぁ……」
そんなことを思いながら、アルダは時計を見た。そのタイミングで、時計の針がちょうど時を刻んだ。
突然、空一面が光に覆われる。天選の儀が始まった。
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