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私立海浜高校の廊下を、腰より長い黒髪を2つに結んだ少女が、おどおどしながら歩いていた。
「(き、緊張してきたよぅ……。友達、出来ると良いな……)」
ぎゅっ、と手に持った鞄を抱き締める。
「今日からこの教室が貴女の勉強する教室です。私が呼ぶまで待っていてくださいね」
「は、はい」
前を歩いていた先生が、2年1組と書かれた教室の前で立ち止まり、少女に話しかける。少女の返事を聞くと、先生は扉を開け、そして閉めた。少女は、扉の窓から中を覗いた。
所謂朝のSHRらしく、朝の挨拶から始まる。
「今日は転校生を紹介します」
途端に教室がざわめく。女の子かな、男の子かな、可愛い子だと良いな、みたいな会話が聞こえる。
「(ひぃぃ……)」
少女はますます緊張する。そして遂に呼ばれる。
「飛鳥さん、入ってらっしゃい」
震える手で扉を開け、黒板の前に立つ。先生が黒板に少女の名前を書いた。
「え、えと、飛鳥空乃って言います。その、な、仲良くしてくれたら、うれしいです……」
緊張のあまり、声が震える。最後の方は尻すぼみになってしまった。
「(うぅ……。いきなり失敗しちゃった……)」
少女−空乃はぎこちなく指定された席に座った。
こうして、空乃の新しい学校生活が始まったのだった。
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