Moon Drop
I love you.
貴方なら、どう表現しますか?
私には好きな人がいます。名前は、渚カヲル君。とってもかっこいいクラスメイト。ファンクラブもある程です。
「名字さん。」
「ふぇ、渚君?」
「今日、一緒に帰らない?」
「えっと、私委員会の仕事があるんだ。ごめんね。」
「じゃあ、待っててもいいかな?」
「そ、それは悪いよ。」
「僕がそうしたいんだよ。名字さんは気にしないで。」
「―うん。」
シンジ君やアスカちゃんと仲がいい私は、必然的に渚君とも仲が良くなりました。普通に話したりできるのが嬉しくて、幸せだったんです。
でも、段々それだけじゃ満足できなくなりました。もっと私だけを見て欲しい。彼の、渚君の特別になりたいと考えてしまいます。
「えっと、渚君?」
「どうしたの名字さん?」
「あ、あの、遅くなって、ごめん。それと、待っててくれてありがとう。」
「僕は自分がしたいことをしただけさ。」
「そ、そっか。」
いつもはシンジ君やアスカちゃんもいる帰り道。
『な、何を話せばいいんだろう?』
二人っきりは初めてで、さっきから心臓の音ばかりが聞こえている。
「だいぶ暗くなってしまったね。」
「ごめん…」
「そんなつもりで言ったんじゃないんだけどな。」
続かない会話、ギスギスした雰囲気が悲しい。
「綺麗だね。」
「へっ?」
「空。星がよく見えるよ。」
「ほ、本当だね。」
綺麗だね、その言葉が、自分に掛けられた物だと勘違いしてしまいました。なんて痛い子なんだろう。
ふと、以前アスカちゃんが話していたことを思い出した。
『I love you.を月が綺麗ですねって、日本人って本当にわけわかんない!』
夏目漱石が英語教師をしていたころの逸話。アスカちゃんの言い分も分からなくない。彼女の性分からしたら、当然だと思う。
『日本人らしいと思うんだけどな…』
何事もオブラートに包みたがる日本人らしい考え方。相手が分からなければ、そのまま流すこともできる。
『言ってみようかな、』
ちらりと渚君を盗み見る。彼は博識な人です。分かっても、その気がなければかわしてくれる筈―
「月が、綺麗だね。」
淡い恋心、精一杯の告白は花開いてくれるのだろうか。
「…僕死んでもいい、かな。」
全く結びつかない回答。そんなに嫌だったのかと、慌てて渚君の方を見ました。
「えっ?」
そこには夜道分かるほど頬に朱の差した渚君。はにかみながらこちらを見つめています。
「あれ?そういうことじゃなかった?」
「え、っと。」
?マークが浮かんでいるのに気がついたようで、確認の一言が投げかけられました。
「あ、もしかして伝わらなかったかい?」
「ごめん。」
どうやら、何かしらの返事を返してくれていたらしい。馬鹿だな私。
「夏目漱石はI love you.を月が綺麗ですねと訳した。」
「うん…」
言葉の裏の意味を取られることが、こんなに恥ずかしいと感じたことは初めて。今の私は、きっと茹で蛸みたいに真っ赤だと思います。
「実はね、もう一人I love you.をそういう風に訳した人がいるんだ。」
「っ、」
それは知らなかった。でも、渚君が言わんとしていることが分かった気がしました。
「二葉亭四迷て人なんだけどね。彼は―」
その後の言葉を聞いて、嬉しすぎて泣いてしまいました。渚君が驚いてあたふたした姿は、この日の記念です。
(彼は)
(私死んでもいいわ、って訳したんだ。)
あとがき
EVA第2作目!?
夏目漱石のお話は有名なんですけどね。二葉亭四迷の方はあんまり知られてないみたい。
というのに気がついて、こんな感じになりました。
思うに、「月が綺麗ですね。」「私死んでもいいです。」という会話の受け答えでいいんですかね?
それとも、「私もです。」なんてのがいいのか…
うーん、疑問は残りますが読んで下さってありがとうございました!!!