強くない私
もうどれくらい歩いたんだろう。
大きな街、小さな村、海辺、どれも通り過ぎてしまった。当てもなく散々歩いた足は痛くて、既に棒のようにぎこちない。
『初めは手、繋いでたのに・・・』
目の前のニコラスを見る。最初は隣で私を気遣うように、手をつないでいたのに・・・
何時からだろう、繋がれた手は離れて、彼は私よりも前を進む。此方を振り返ることなくスタスタと歩みを進める彼。私はただ置いて行かれないよう着いていく。
また海岸沿いを進んでいたとき、遠くに見えた二つの人影。それを見つけた瞬間、ニコラスは走り出してしまった。
「ま、待って、ニコラス!」
追いかけるけれども、黄昏種の脚力に叶う筈もなく差は広がるばかり。
「まって、まって、おいてか、ないでっ」
手を伸ばした先には、合流した3人。日差しのせいか、それとも涙のせいか、霞んだ視界の中で、笑い合う彼らを見た気がした。
強くない私
「― ゆめ?」
暗いベッドルームで、隣には規則正しい寝息のアレックスが居る。さっきのは夢だったんだ。当てのない旅も、ニコラスが私を置いていくことも・・・。皆一緒なのだから。
「でも、貴女には勝てないよ。」
どれだけ一緒に居ても、この子の様に強くない私の心は一人置いていかれる。