愛を囁く鳥達


「あらデリコ、飲まないの?」


声をかけた隣の男は、浮かない顔で此方を見返してきた。顔の大半が前髪で隠されていても、その見目麗しさが見て取れる顔立ち。そんな容姿を持つにもかかわらず終始無表情なこの男を、疎ましく思っていた頃が懐かしい。


「はぁ、」


「人の顔見て溜息吐くなんて、出禁にしようかしら。」


「そんなんじゃありませんよ。」


「じゃぁ、どうしたっていうの?」


「その、今日は飲む気分じゃないんです…」


溜息をまた一つ。本来ならこういった客は店の雰囲気をも変えてしまうから帰って貰うのだけど。仕方ない、だって何かの策略か今日の客は彼一人なのだから。


忘れかけたころにまた一つ零れる溜息。ふと、今BGMとしてかかっている曲を思い出した。


「ねぇ、デリコ。」


「なんですか、ナナシさん。」


「貴方が溜息を吐くと、子守唄が聞こえるの。」


突拍子もなく切り出したのは重々承知しているが、そんな不審人物を見た様な表情をしないで欲しい。


「残念ながら私のちっぽけな頭じゃ、どんな歌なのか言葉にできないんだけれども。」


「そうですか、」


「でも、愛し合うキジバトたちの囁き声を、今までに聞いたことがある?大体そんな感じよ。」


全く分かりませんって顔ね。ふふふ、いい男のそんな表情も好きだわ。


「そうねぇ、例えば」


カウンター越しに身を乗り出し、デリコの着るスーツの襟を引っ張る。急なことで対応できなかったであろう彼の体は前のめり、私の唇に薄く乾燥した体温が触れた。見開かれたデリコの瞳を見つめたまま、唇を舌先でなぞってゆく。ゆるりと開かれれば、不慣れな体勢の中アルコールの香る咥内を互いに蹂躙する。


「私達がキスする時に奏でる音、かしら。」


ゆっくりと繋がった銀の糸は、直ぐに距離を縮めた。




愛を囁く鳥達



(ねぇ優しくキスをして、そうしたら空高く舞い上がれるわ。)


(だって、私たちは愛し合っているんだもの。)






あとがき
私の脳内では、しんみり顔のデリコたんがバーでうだうだしている感じですね。本誌の彼を知らんので、我が家は未だにこんな感じです。いつか勇ましい彼が書けるだろうか…?


こんなんでしたが、此処まで読んで下さってありがとうございました!!


inspired by Lullaby Of Birdland


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