セピアの海へ


「―?」

甘いまどろみの中、遠くから誰かの声が聞こえる。

「ナナシ?」

「んぅ、おは、よう。」

「こんなところで寝てたら風邪ひいちゃうよ!」

聞きなれた声。起こしてくれたのはニナ。どうやらテオ先生を待っている間に寝ていたらしい。

「起きたか?」

「まだ覚醒できてないみたいです。」

「んー、もちょっと寝たい…」

「起きてるならさっさと来い。」

駄々をこねる私に、テオ先生の容赦ない言葉が返される。

「あいあい、分かったから物騒なもん向けないでくださーい。」

軽口は叩くが、素直に先生の前まで行く。機嫌損ねて診てもらえ無かったとか笑えないしねぇ。

「…調子はどうだ?」

「変わり無い。」

「そ「って言いたいんだけど、残念ながらその逆。」

「馬鹿者が。セレブレの飲み過ぎだ。」

「…だね。」

黄昏種にとってセレブレは無くてはならない。だが用量を間違ってしまえば、最期はすぐにやってくる。

そして、どうやら私はその用量とやらを間違えた側らしい。

―感覚麻痺・視力の低下

日増しに世界が色を失っていく。


「反省してないだろう。」

「アハ、ばれてた?」

「お前ん所のボスに言いつけるぞ。」

「あー、それだけは勘弁してよ、テオ先生。」

「…」

無言のままこちらを見るテオ先生。言いたいことは分かる。お嬢なら気付いているだろう、そんなことくらい。

「分かってるよ、でも…言いたくないんだなぁ。」

スラムで野垂れ死にかけていた私を拾ってくれた人達。恩返しがしたくて、彼女らの刃になることを選んだ。

「下手に隠すと厄介事になりかねないぞ。」

それは忠告。今の状況下で足手まとい要素は命取りだ。

「―潮時なのかな?」

初めて口に出した弱音。もう自嘲的な笑みしか出てこない。




「ここで働け。」

「は?」

突拍子のない提案に間抜けな声が出る。

「冗談はよしてよ。」

そう言って先生の方を向けば、いつものだるそうな目ではなくわりとしっかりした目とぶつかった。

「冗談、じゃないの?」

「冗談でこんなこと言えるか。」

「私、目見えなくなってってるんだよ。」

「此処にいれば使わずに済むだろう。他所でセレブレ使われるよりましだ。」

「でも、」

「ナナシ」

「…何?」

「此処に来い。」

「はは、強引だなー。」

「お前がいればニナが喜ぶ。」

「うれしいなぁ。でも、ニナだけ?テオ先生は?」

調子に乗って聞いてみたら、そっぽを向かれてしまった。


セピアの海へ


(暗褐色の海)

(貴方とならば何処までも…)



あとがき
ごめんなさい…挑戦してあえなく撃沈…


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