揺れる赤
「うるせぇ!インテリファナリス!!」

「何だと脳筋ファナリス!受けて立つのだ!!?」

食堂に行くと聞こえてきた怒声。ファナリス兵団では日常茶飯事と化してしまった、ミュロンとロゥロゥの痴話げんかだ。周りの団員も気にしなくなってしまった毎度毎度繰り広げられるこの光景。元気がいいことは何よりだが、もう少し仲良くできないかと頭を悩ませる。

「2人とも、仲良く。仲良くね?」

仲裁に入れば今日はすんなり大人しくなった。いつもこんな感じだと良いんだがなぁ。

「ふふふっ、お二人とも本当に仲がよろしいんですね。」

「違うのだナマエ!誰がこんな奴なんかとっ!!」

「そーだぜ、こっちこそ」

「2人とも?」

また勃発しそうになったので、持ち前の笑顔で制す。全く、火に油を注いでどうするんだ。

「あらら、そんな怖いお顔されるからお二人とも行っちゃいましたよ。」

「これ以上暴れられてもしょうがないからな。所で、医師の君がこの時間にここに居るのは珍しいな。」

「えぇ、今日は珍しく怪我をされた方がいらっしゃらなかったんですよ。」

「そうなのか?珍しい・・・」

「明日は剣が降ってくるかもしれませんね。」

「認めたくはないが、何かの前兆な気がしてならないぜ。」

「団長は心配症ですね。」

クスクスと笑う姿が可愛らしい彼女は、医師のナマエ。ファナリス兵団の怪我人を全て診てくれるなくてはならない存在だ。

「あ、団長。買い出しに行ってきてもよろしいでしょうか?」

「また包帯か?」

「はい、あと消毒液などを」

「重そうだな。よし、俺も行くぞ!」

「団長自らなんて!医師班で行ってきますので。」

「遠慮しなくていい。俺が一緒に行きたいだけなんだ、な?」

俺は返事も聞かずに、煮え切らない表情のナマエを引きずるように市場に向かった。緩く掴んだ手首、後ろから慌てた声で待って下さいと聞こえてきたので止まって彼女の息が整うのを待つ。少し困った顔のナマエは少しだけ俺の心を意地悪にさせる。

「団長、早いです。」

「ははっ、ごめんな。頼むよ、膨れないで。」

「むぅ、ずるいですねぇ。」

「さ、今度はゆっくり行こうか?」

「お願いしますね?」

さぁ、と手を差し出せば、ん?と疑問符を浮かべられた。あれ、俺と手を繋いでくれないのか?

「御手をどうぞ?」

「すみません、団長。私、団長の後ろを歩きたいです。」

ダメですかと可愛らしく尋ねられて、手を繋ぎたいと強く言えない俺はしぶしぶ彼女が後ろを歩くことを承諾。そう言えば、こうやって歩くとき殆ど手を繋ぐことを断られている気がする。気付いてしまったからには、考えずにはいられない。気付けば俺が悶々と悩んでいる間に買い物は全て終わってしまう始末。

「なぁ、ナマエ。聞いてもいいか?」

「どうかなさいましたか?」

「その、なんだ、俺と手を繋ぐことなんだが。」

「ふふ、嫌いとかそんなことではありませんよ。」

「なっ、じゃあさっきと良い、いままでのは?」

「意地悪じゃないですよ。団長の後ろを歩かせて頂いて、髪を見るのが好きなんです。」

「髪?俺の?」

「団長以外にどなたがいらっしゃるんですか?」

「まぁそうだが。つまらなくはないのか?」

俺には何が楽しいのか全く分からない。だがナマエは揺れる赤髪が美しいのだと言う。

「ナマエは変わってるな。」

「そうでしょうか?」

今も俺の後ろを歩いているから、揺れる赤を堪能しているのだろう。ファナリス特有の赤い髪。自分たちの誇りでもあり、自分たちの存在も表してしまうそれを、俺は嫌いだった。シェヘラザード様への信仰のあかしとして、彼女と同じように伸ばして来ただけだったのだが、彼女は綺麗だと、美しいと賛美する。なんだか恥ずかしいような嬉しいような暖かい気持ちになった。

「なぁ、ナマエ。」

「はい?」

「これからも見ていてくれないか、俺の赤髪を。ずっと。俺が間違った方向に走らないように。」

「私でよろしいのですか?」

「ナマエしかいないんだ。俺の髪を綺麗だと言ってくれたね。」

「なんて大役なんでしょう。でも、とても光栄です。」

「ありがとう。」

未だ彼女は後ろを歩いていたが、俺の左手にはそっと彼女の右手が重なった。


勿論繋いだままの手を見て団員達からは盛大に冷やかされてしまったのは言うまでもない。







あとがき
途中で挫折しかけましたが、何とか書ききりました!内容なんて、全く詰まっていませんね!?単に私がムーさんの赤髪が好きなだけです!!

お目汚し失礼いたしました!!!!!
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