背中合わせ

「…」

何かを言いたさそうに、口を開いたり、思い留まったように、それを閉じたり。

「どうかなさいましたか、マスルールさん?」

目の前に佇む彼は見ているだけで面白い。

「…」

だが、此処は私の根城、もとい、医務室だ。上官が居れば、怪我人と言えど入りにくいだろう。

「マスルールさん?」

もう一度名を呼ぶと

「ナマエさん、」

徐に口を開いて下さった。

「はい。それで、どうかなさいましたか?」

一見何ともなさそうだが、一応聞いてみる。

「いえ、今度の外交行くことになりました。」

負傷云々ではなかったようだ。

「そうですか。」

外交があることは知っていたし、おそらく彼が同伴するだろうとも予測していた。なので、あまり驚きもしなかったのだが…

「えっと、マスルールさん?」

機嫌を損ねてしまったらしい。むすーんとした雰囲気が辺りを包んでいる。

「言葉にして下さらないと、分かりませんよ?」

私はそんなに賢い方ではないので、と加えるのを忘れない。そうすれば、少し反応した巨体。

「無事に帰ってきてください、」

「ん?」

「って、言ってくれないんすね。」

えっと、それはつまり、

「心配、して欲しかったんですか?」

またピクリと反応した彼。

「程々に心配はしていますが、」

医療に従事する者として、負傷はしてほしくない。しかし、じっと此方を見つめるマスルールさんには申し訳ないが

「そのようなお言葉は、恋人から貰う物ですよ。」

そう、私たちの関係では使われないだろう。

「居ません。」

「そうですか。ですが、」

候補ならそこら中にいらっしゃる、そう続くうはずだった言葉はいつの間にか伸びて来ていた彼の拳に吸い込まれて

「俺は、ナマエさんに、言ってもらいたい。」

進撃な眼差しに射止められる。その意味が分からないほどの生娘ではない。そんなもの遠の昔に捨てた。

「…」

今度は私が口を閉ざす。

「ナマエさん。」

分かっているだろう、自分を咎める様な視線を一身に受けながら。それでもなお、口を閉ざしたまま。

「おーい、マスルールー!!」

遠くでシャルルカン様の声が聞こえた。あぁ、助かった。

「お呼びですよ。」

「ナマエさん。」

「マスルール様。」

呼び方を変えた、唯それだけ。それでも効果は十分。

「…失礼、します。」

袖を引かれたようにのろりと立ち上がり、部屋を後にしたマスルールさん。

あぁ、本当に浅ましい。こうやって、その想いに気付いたまま振り回していく。
けれども、戦いもしない私が貴方の癒しになるなんて、そんなのあっていい筈がないんだ。


背中合わせには程遠い


(隣には、その背を任せられる)

(あの子の方が相応しい。)



あとがき
女兵→マス→夢主な感じを想像してみました。

うーん、やっぱり意味不明になった。

こんなんでしたが、此処まで読んで下さってありがとうございました!!!

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