接近

「やあ、ななし!!」

「失礼いたします、時辰殿。」

ぺこりと一礼し踵を返すななし。僕は君に挨拶をした位置から動けないまま、その後ろ姿を見つめるばかり。

「ふんっ、どうせお前のことだ何かやらかして、ななしから嫌われているのだろう。」

燭に相談したらそんな風に言われた。もっとオブラートにと思う反面、なんだかんだ言いつつこうして話を聞いてくれる所がこいつの良い所なんだよな。

「そんな筈ない。彼女とは円卓でしか顔を合わせないんだぞ?」

流石にあの場でそんなことをすれば、火の粉が何処へ飛ぶかわかったもんじゃない。それくらいの切り替えはしている。

「それ以外何だと言うんだ?大体お前とお前の弟は知らず知らずのうちに…

燭がぐちぐち言っていることはさて置き。僕がななしに何か気に障ることをした記憶は一切ない。ならば、彼女は何に対してあんな態度を取るのだろうか?


「清々しい朝だな、ななし!!」

「それではご機嫌麗しゅう。何でしょう、時辰殿?」

今日も別れの言葉と共にその場を去ろうとした彼女。僕はそんな彼女の手を掴んでいた。

「おはよう、ななし。」

「…」

「おはよ、」

「失礼いたします。」

振り払われた手。掴んだその手は小さく震えていた。

『そんなに嫌われているのか…』

しかし、と続けてしまうあたり、自分も相当人が悪いと自覚する。

「そこまでされると、逆に相手をしたくなってしまうな。」

ななしが去った後の通路で溢した本音はきっと誰も聞いていない。


接近


あとがき
いつもの奥さんではない主人公と時辰さんでした。ちょっち腹黒?懐かないと、一層構いたくなる質な時辰でした。燭さんが出せて楽しかった…

こんなんでしたが読んで下さってありがとうございました!!
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