願うだけ
「ねぇ、平門。」
「どうした、ななし?」
「空を飛ぶってどんな感じなの?」
窓の外に広がる青を眺めていたななしがそっと口にした疑問。
「空を飛ぶ、か。」
「貴方よく飛んでるでしょう?」
「仕事だからな。」
「贅沢ね。」
くすくすと彼女の笑い声が聞こえる。確かに、よく考えれば贅沢だな。人間は本来、他の力なしにその足を地から離すことなんてできないのだから。
「初めのころは、」
「うん。」
「嬉しかった気もする。」
「そっか…」
最初は嬉しかったはずだ。次第にバンシーの操作が加わり、そちらに集中するようになっていつの間にか、本当にいつの間にか俺の中で飛ぶことは当然の行為になっていた。
「ね、平門。」
「どうした?」
「がんばったら、諦めなかったら、」
「あぁ。」
「いつか、あの空を飛べるかな?」
返答に詰まってしまう。病弱なななしは出会う前からずっとこの病室に居る。様々な薬品、医療機器、そして腕のいい医者。これ以上ない環境。彼女にとって此処から出ることは危険だ。そうと分かっていながら先程の質問に是と言えるほど彼女には残酷になれない。
「…」
「嘘でも、答えてくれないんだね。」
「すまない。」
「ふふふ、平門は優しいね。」
「何を、」
「さっき燭先生に同じことを聞いたら馬鹿か君は!?そんなに死にたいのか!!って怒られちゃった。」
「流石、燭さん。」
「それでね、私だったら実行しそうだって。」
「あぁ、だからあんなに入口が…」
「そ、看護師さんたちも忙しいのに。」
「…ななし。」
「どうしたの、平門?」
「まさか、実行したりしないだろうな?」
「もう、貴方まで同じこと言うのね。」
拗ねてしまったななし。それでも酷く悲しげな顔で君は返事をくれた。
「大丈夫、しないよ。ただ、」
願うだけ
(願うことしかできない彼女)
(一緒にと言えない自分)
あとがき
よく分からない病弱ちゃん。