それは残酷な
ショートケーキのような、たっぷりのレースが似合うわけでもない。
ましてや、カクテルのような煌びやかなドレスなんて、もってのほかだ。
私はななし。輪貳號艇で闘員をやっている。とは言っても、クロノメイで特に優秀な生徒でもなかった。むしろその逆だ。演習になれば、必ずと言っていいほど周囲の足を引っ張る存在。
何度もコースを変えるよう勧められた。それでも輪コースにこだわた。家族の仇を討ちたかったのだ、自分の手で。
時間はかかったが無事、輪に入団した。配属先が貳號艇だとわかった時は、あり得ないと思った。当たり前だ壱號艇、貳號艇は実力のある人間しか入ることはできない。
嬉しかったが、それ以上に不安だった。
艇での生活は失敗しないよう、ついていくので精一杯だった。私のせいで、ヴァルガを逃がしてしまうことだってあった。激務と自分に対する葛藤から壊れかけていた私を、救ってくれたのは平門さんだった。
「何をそんなに焦っている?俺はななしの目標に一途なところを買っているんだ。」
世界が開けた瞬間だった。素直に嬉しかった。
『この人の役に立ちたい。』
この時から私の目標が増えた。
それからは発見と驚きの連続だった。まず、イヴァさん、與儀さん、ツクモちゃん、貳號艇の皆はとても優しかった。以前の私を心配していたと聞かされた時は、本当に申し訳なかった。
そして、平門さんの人気だ。研案塔に行けば、ナースさんたちの目がハートになる。それでなくても平門さんの周りには、素敵な人がたくさんいる。イヴァさん、ツクモちゃんキイチちゃん、挙げればきりがない。
ツクモちゃんを見ていて、気付いてしまったことがある。彼女が平門さんに想いを寄せていること。
そして、私も彼に想いを寄せているということ。
張り合おうなんて思いもしなかった。いや、考えるはずもなかった。ツクモちゃんは、強くて、優しくて、美人な貳號艇の花形。
私は、復讐に囚われた平凡な女。彼女と私では、同じスタートラインに立つことすら許されなかった。
『平門さんの隣は、彼女の様な美人がよく似合う。』
そう自分に言い聞かせてきた。
「ななし!」
深い思考の海に漂っていた私を、平門さんの声が掬いあげる。聞いたことのない、悲しみの滲んだ焦るような声。
『どうしてそんなに悲しそうなんですか?』
彼の表情を捉えようとして、言葉を発そうとして、自分の体が言うことを聞かないことに気がついた。
『あぁ、任務中に仇に遭遇して、返り討ちにあったんだっけ。』
聞こえるたびに悲痛さを増す平門さんの声に自分の最期を悟った。周囲が騒がしくなった。燭先生でも来たのだろうか。ごめんなさい、私はもう駄目です。
いよいよ、平門さんの声も聞こえなくなってきた。
後悔は家族の仇を討てなかったこと。平門さんへの想いはこのまま持って逝く。
意識が堕ちる瞬間、それははっきりと聞こえてきた。
「ななし。好きだった。」
『そんな幻聴聞かせなくてもいいのに。』
最期だから良かれと思ったのだろうか。それとも、最後の最後まで私を嘲笑いたかったのだろうか。どちらにしろ、神は残酷だな。
考えとは裏腹に、幸せに口元がほほ笑んだ気がした。