ある日の二人
「ななし。」
平門さんの声は色っぽいと思う。そんな彼の声が私の名前を呼ぶ。
「どうかしましたか、平門さん?」
「少し喉が渇いたんだが、何か飲み物を煎れてくれないか?」
今日も相変わらず書類に囲まれている平門さん。以前私が面倒では無いのかと尋ねた時に、彼が文字として残す方が好きなんだと、笑いながら答えてくれたのを覚えている。
ただ何時もと違うのは、非番の私を平門さんが作業机の前にあるソファーに居座らせていること。
「何か御要望は?適当に煎れちゃいますよ?」
「そうだな、ななしの飲みたい物をお願いするとしようか。」
珍しい彼の要望を受けて、私は部屋にある簡易キッチンへと向かった。
簡易キッチンとは言え、やはりトップの部屋。そんじょそこらの物とは、比べものにならない。そんなことを考えながら、扉を開けて中から色違いのカップを出す。誕生日に平門さんがくれたものだ。
『私が飲みたい物か…』
違う所を開けば、ストックされた物達が現れた。
『あれ?』
そこから目に付いた物を取り出す。ちょうどいい位のお湯に浸せば、決して狭くないキッチンに心地よい匂いが広がっていく。
『きっと平門さんの所まで香ってるだろうな。』
必要な物をお盆に乗せて、書類と格闘する平門さんの下へと向かう。
「お待たせしました。」
「いい香りだな。」
「でしょう?お気に入りなんです。まさか平門さんの所にもあるなんてびっくりしましたよ。」
「この前、イヴァが置いていったやつだな。ななしのお気に入りだったのか。少し気になるが、あいつには感謝しないとな。」
「何か不思議な気分です。平門さんとこれ飲んでるの。」
「そうか?次からはこれをストックしとくか。」
「気に入って頂けて嬉しいです。」
「ななしのお気に入りだからな。」
朗らかに笑う平門さん。謎は一つ解けたがもう一つがまだだ。
『聞いてもいいのだろうか?』
「どうした、ななし?聞きたいことでもあるのか?」
何でも見透かしたように問い掛けられれば、白状するしかない。隠せば後が厄介になるのは過去に経験済みだ。
「えーと、今日はどうして一緒に居れてるのかなって。何時もは違うでしょ?」
「ななしが寂しがっているだろうと思ってな。」
絶句した私と、なんだそんな事かとでも言いたさげな平門さん。
「顔が真っ赤だぞ?図星か?」
「うーっ」
「可愛らしいな。」
「平門さんは、意地悪です…」
恥ずかしくて下を向けば、楽しそうな平門さんの笑い声が響いた。
そんなある日の二人
(任務続きで君不足なんて 言えるわけがない)