瞳孔マジック

来る。そろそろ来る。

「ななしちゃーん!!!」

ほら、来た。

「おかえり、與儀。」

「ただいま!」

无ちゃん達と街に行っていた彼の表情は明るい。何時もの任務明けとは全く違う。

「楽しい事あった?」

「うん、えーっとねー…」

何から話そうか悩んでいる姿は面白い。

「えっとね、ってななしちゃん聞いてる!?」

「聞いてるよ。」

與儀は普段から子供っぽいが何がどうだか、私の前だと拍車がかかる。多分、保護された時の護衛で私が就いていたからだろう。

『平門、お前の言う通りだ。随分と懐かれた…』

さっきから楽しそうに今日の出来事を語る姿が、尻尾を振ってじゃれて来る大型犬と重なる。いかん、何処かの鬼畜な眼鏡上司のせいで疲れが溜まっているようだな。

「ななしちゃん!!」

風船が破裂したかのように現実に引き戻された思考。これまでにないくらいの至近距離で此方を見つめる與儀に、内心驚いたのは表情に出ていないことを祈る。

「開いてる。」

「ん?ごめん、疲れてた?」

「んぁあ、すまない。今度はちゃんと、」

「ううん、今日はもう休んで。明日また聞いてね?」

絶対だよーと振り返りながら部屋を出ていく與儀。年下に気を使わせてしまった、とへこむのと同時に至近距離で見てしまった物が頭にこびりついている。

「開いてたな、瞳孔…」

人間は好きなものを見る時、瞳孔が開く。何時ぞやか、燭先生がおっしゃっていたこと。好きなものをよく見たいといった心理状態が無意識に表れるそうだ。

「あー、あれは親愛だ、親愛。」

親に子が見せるそれと同じだと自分に言い聞かせる。

『明日かぁ、任務貰いに行こう…』

そうやってかわして、その親愛さえ消えて無くなってしまえばいいのにと頭を抱えた。


瞳孔マジック


(もう、恋だの愛だのはいいんだよ。)


あとがき
瞳孔ネタは甘くする筈だったんだ!?なのに何故、こうなった!!!
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