Call me Plump girl

「はぁ…」
「シケタ面してどーした?」
「わ!?日下部さん!お疲れ様です!」

独り休憩していた談話室にやってきた日下部さんに声を掛けられて飛び上がるなまえ。驚かした張本人はどこ吹く風だ。

「い、いえ、大したことないので!大丈夫です!!」
「へー、そんなよそよそしい奴にはお土産やんねぇーぞ?」
「お土産!?べ、別に欲しいとは…」
「折角地元銘菓買ってきたのにな。なまえが要らないって言うんなら、生徒たちに配るか。あーあ、勿体ねぇなぁこれ美味いって評判なのに。」
「すみませんでした〜!!」
「はじめっからそうしときゃいいんだよ。ほれ。」
「日下部さん、何パワハラやっているんですか。」
「七海さん!?と伊地知さん!」

どこから見ていたのか、それとも見事に90度のお辞儀をしながら、お土産をくださいと手を差し出していた私の姿を見てそう思ったのか、七海さんがその独特なサングラスのブリッジを押し上げながら談話室のドアの所に立っていた。そして、その後ろには先輩補助監督の伊地知さんが顔をのぞかせているではないか。お土産の箱を手にワタワタする私を他所に、日下部さんはやれやれと頭を掻いている。

「よぉ七海、伊地知。んな、怒んなよ。土産を渡してただけだぜ?」
「そ、そうですよ七海さん!」
「なまえさんが頭を下げているように見えましたが?」
「なまえが初めいらないとかいうから、ちょっと揶揄ったんだよ。」
「はぁ、もし彼女が本当に不要だと思われていたのであれば、それは立派なパワハラです。ところでなまえさん、先日食べたいと仰っていたパンが手に入ったんですが、貰っていただけますか?」
「あ、おま」
「あのパン買えたんですか!?」
「ええ、丁度任務へ向かう途中にお店があったので。どうぞ。」
「あ、えっと」
「なまえさん?」
「うぅ、いただきます!?」
「なぁ伊地知、俺にパワハラって言った奴があれでいいと思うか?」
「え!私!?あ、いえ、ど、どちらかと言うと、なまえさんに凄い葛藤が見えた気がします。」

美味しいと話題になっている菓子パンを、血の涙を流す想いで七海から受け取っていると、紙袋を渡し終えた七海さんの手が退かない。不思議に思い、視線を袋から七海さんへと移すと『それで、先ほどの葛藤は何かあったんですか?』と三人を代表する様に投げかけられた。

「「「ダイエット?」」」
「そっ、そうです…」

そんな大声で、しかもまじまじと見られると恥ずかしいですという言葉を紡ぐだけの度胸は、左右と前に陣取られた私にはない。どうやら経緯を話さないと解放してくれなさそうな雰囲気で、渋々ながら白状していく。

「つまり調査に行った先で、ふくよかな女性に補助監督の仕事は務まらないと言われたと。」
「はい…」

思い出すだけで腹が立つことではあるが、この業界の人達はすらっとした人か筋肉質な人が多いのだから理解ができなくもない。面と向かってではあったが、デブではなく『ふっくら』と言われただけましだと思おう。ノットデブ、アイアムぽっちゃり!!なんて言ったところで、気にはしているわけで。少しは痩せようかなとダイエットを始めたばかりだったのだ。

「馬鹿ですねその人は。体型で任務が務まらないなんて、貴女を知らない人の発言を真に受けなくて結構。なまえさんはそのままでいいんですよ。」
「七海さん…」
「それでダイエットって、お前は阿保か。女は少しくらいふくよかな方が良いんだよ。」
「日下部さんも…」
「そうですよ!変に痩せすぎているより断然いいと思います!つ、辛い仕事が多いですから!!」
「伊地知さんまで…」
「な、俺らがこんだけ言うんだぞ。気に病むだけ損だろ?つーか、んな理由でせっかく買ってきたお土産拒否された俺の方が悲しいわ。」
「日下部さんはさておき、ダイエットなんて辞めて、今まで通り美味しい物を一緒に食べましょう?」
「皆さん…!わ、私、ダイエット辞めます!お土産いただきます!!」

お三方の優しい言葉に感動し涙していると、伊地知さんがお茶を入れてくれて、四人で日下部さんのお土産に舌つづみを打つ。

「美味し〜!さすが地元銘菓!日下部さん、いつもありがとうございます!」
「おお。しっかし、いつ見てもいい食べっぷりだな。」
「そうですか?」
「なまえさんとご飯食べるとすっきりした気分になるって補助監督の中では有名なんですよ。」
「え!?嘘!」
「あぁ、その話なら呪術師の中でもありますよ。」
「は、恥ずかしい…」
「いいじゃありませんか。食べることは生きる事、このような業界で食を楽しめることは健全な証拠です。」
「良い特技だと思えばいいんじゃねーの?ほれ、俺の分も食え、食え。」
「わ、っと。」
「日下部さん、食べ物を投げるのは感心しませんよ。」
「ちっと位いいじゃねーの。パン後回しにされたからって拗ねんなよ。」
「拗ねてません。日下部さんこそ大人気ないのでは?」
「あ、あの!パンは自宅で堪能するので大丈夫です!」

何やらバチバチと音がしそうな雰囲気を醸し出している日下部さんと七海さんに、そう告げると2人はため息をついてしまった。あれ、そういう話ではなかったのかと、助けを求めて伊地知さんを見るけれど、お菓子美味しいですねと笑顔が返ってくるばかり。

『あ、これはたまにある深く考えすぎない方がいい奴だ。』

そう思い至り、思考を放棄した私は日下部さんから貰った追加のお菓子を頬張った。

「んん〜!やっぱり美味しいって幸せです!」

満面の笑みで菓子を頬張る姿はある種の癒しであり、今日も多忙を極める同僚たちの心のオアシスなのであった。

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