2人と1機
リビングの床に大きな段ボール箱が1つ鎮座している。その横にフローリングに直に正座する日向子さんと私。戸惑い顔で箱と私を交互に見る彼女に、それはそうなりますよねぇと罪悪感が芽生えた。

「潔高君、これどうしたの?」
「それがですね、●●商店街の福引きで当たってしまいまして…」
「チケット残り1枚で引けるって言ってたやつ?すご!確かこれ、二等賞の景品だったよね?」
「ええ、一等の旅行とこちらが人気だったようで、周りからの注目が凄かったです。やはり人気は健在なんですね。」
「そりゃそうだよ。だって、ルソバだよ?ルソバ。」

旅行にだってひけを取らないよと立ち上がる彼女に続いて私も腰をあげる。2人して段ボールを開けると、出てきたよく見る丸いお掃除ロボ。仕事柄何時かは導入したいと考えては先送りにし、日向子さんとお付き合いし出してからは私か彼女が小まめに掃除機をかけるようになって、泣かば忘れかけていたところでまさかの当選だった。

『もしかすると、日向子さんが気にしてしまうかもと思ってましたが、嬉しそうでなりよりですね。』

にこにこと笑う彼女は割りと気にしがちと言うか、職業柄裏を探ってしまう傾向にある。だから『私の家事が至らないから』等と凹んでしまうのではないかと、帰り道少し考えていた。最初こそ気まずい雰囲気になりかけたが、昨晩話していたのが功を奏したらしい。気がかりだった事が杞憂に終わって一安心した伊地知は、日向子と一緒に説明書を読み始める。

「まずはホームベースの設置ですね。」
「おっけー。この辺にする?」
「そうですね。あ、でもそこだと日向子さんクローゼット開けにくくありませんか?」
「ほんとだ。じゃあ、こっち?」
「そこならよさそうですね。」
「よーし、お前の戻るとこはここだよー。」

ホームベースを設置した日向子さんがルソバに話しかけている。アプリで設定画面を開いた伊地知は次の項目を見て、これからも彼女がルソバに話しかける機会は増えるんだろうなと笑みが溢れる。

「日向子さん、ルソバに名前を付けるそうですよ。」
「え!?名前??」
「ええ、設定アプリにそう書いてありますので。何かいいのありますか?」
「んー、タマ!」
『それは猫では…?』
「えー、じゃあきよ君?」
「絶対止めましょう。」
「あれ?不評だった?」
「そのあだ名は駄目です。その、私だけのものですから…。」

恥ずかしすぎて消え入りそうになる声を拾った日向子が、きよ君は可愛いねと言ってくるから、伊地知は顔を真っ赤にしながらなんとか画面に『タマ』と入力して掃除開始のボタンをタップしたのだった。

「お!動き出したね!」
「わ!?こっち来ましたよ!」
「潔高君、ソファー!ソファーに避難!!」

動き出したタマがいきなり迫ってきて慌ててソファーの上に避難した私たちは、きょとりと顔を見合わせて笑い出す。

「びっくりしたね。」
「まさかこちらに向かってくるとは、思いもしませんでしたね。」
「あ、タマ、ゴミ箱に突進かましてる。」
「タマはアグレッシブなんですね。」
「突進して地形を学ぶ…ちょっと取り入れらんないかなぁ。」
「絶対止めてくださいね。ボロボロの日向子さんを見るたびに、私はタマを許せなくなりそうです。」
「分かった。」
「ありがとうございます。おや、今度はソファーの下に行きましたね。」
「ほんとだ。…出てこないね。」
「きっと狭くて暗いとこが好きなんですよ。タマですから。」
「タマだけに…猫ちゃん飼ったみたいだね。」
「そうですね。」
「出てきた!うわ、ってトーテムポールに乗り上げてる!あれ助けた方がいいのかな?」
「し、暫く様子を見てみましょうか。」

ガタガタとトーテムポールの足の上で回転するタマに頑張れと掛け声をかける日向子を見て、伊地知は癒しだなぁと胸に暖かいものが広がるのを感じた。


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