1日遅れ?上等よ!
2/15 午前10時、日向子は紙袋片手にため息をついた。

「もー、どこに居るのよ伊地知君。」

探しているのは同期の伊地知潔高の姿。補助監督と言う立場上、送迎やら各所への申請やらで出ていることが多いのは知っているが、それも2日目になると流石におかしいのではと思い始めていて。すれ違う補助監督へ確認してみると、出勤はしているらしいとのことなので、一安心はしているのだけれど。ちょこちょこ席を立って誰かを探しているらしい。

「五条先輩案件だよね…。」

伊地知が探す相手と言えば、もっぱら五条と相場は決まっている。お気に入り、優秀、からかいがいがある。理由は様々だけど、五条が彼から逃げる?隠れるのは良くあること。運悪く昨日からそれが続いているのかと思うと、日向子はげんなりする。

「もう食べちゃおうかなぁ…。」

チラリと見た紙袋の中身はチョコレート。本来ならば昨日のバレンタイン当日に渡したかったもの。探せど見つからない伊地知に心折れそうになって、もう彼のデスクに置いておけばいいのでは?と思っては、直接渡したいななんて乙女心が邪魔をして。また探して、見つからなくてを繰り返した結果、日を跨いでしまった。

『こんなことなら、さっさとデスクに置いとくんだった。』

義理にしては少し値の張る、それでいて本命にしてはちょっとラフなチョコレートを思い出す。そこに見え隠れする、気が付いて欲しいけど気付いて欲しくないなんて可愛くもない恋心が己を嘲笑っている気がして。こんなものを15日になってから渡すくらいなら、いっそ自分で食べてしまった方がいいんじゃないかと思い始める日向子。報告書を提出してもう帰ろうと高専内を歩いていると、廊下の曲がり角から現れた人物とぶつかりそうになった。

「日向子さん?」
「伊地知君?」

廊下の曲がり角で誰かにぶつかりそうになった伊地知は、謝罪しようとして相手が誰だか気が付き、謝罪よりも先に相手の名前を呼んでいた。

『こんなところに居たんですか〜!』

昨日から散々探しては、五条さんに仕事を押し付けられ、また探しては、五条さんにおつかいを頼まれて、結局日向子に会えずにバレンタインデー当日が終わってしまって。男性から渡してもいいのよと釘崎に脅され、密かに日向子宛てにチョコを用意していた伊地知は、会いたかったけどできれば昨日が良かったと内心涙を流す。

『流石にバレンタイン翌日に男からチョコを渡すのは、そういう事だって気が付きますよね…。』

自分が日向子へ向ける思慕の情に気が付いて欲しい反面、拒絶されたらどうしようと言う恐怖が伊地知の動きを鈍くする。長い片思い、この歳で同期と険悪になりたくない。ぐるぐるとマイナス思考が巡って、性懲りもなく胸の内ポケットに忍ばせた箱に手を伸ばすことさえできない。

「伊地知君、これ、あげる。」

神妙な雰囲気を壊したのは日向子だった。

単語単語で差し出された紙袋と、少しだけ頬を染めてそっぽを向く彼女の姿に、伊地知は胸に込み上げる愛おしさを無視することができず。暫く固まっていると、やっぱいらないよねと引っ込めようとするのを察して、慌てて内ポケットから箱を取り出す。

「わ、私も、これを、日向子さんに…」
「え、私に?」
「い、いつものお礼に、昨日渡したかったんですが、その、お会いできなくて…今日になってすみません。」
「わ、私も、お礼に渡したくて…昨日探してたんだけど。」
「もしかして私達、すれ違ってました?」
「わー、そういう事だったんだー。」

バツの悪そうな表情で、それぞれお礼だからと強調して、義理にしてはなチョコレートを交換し合ったのだった。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -