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たとえ呪いの中、輪廻の中、縛りの中、領域の中、術式の中、因果の中、悠君のポッケの中〜。なかなか、これまた、どうにも、こうにも、大変だけど!無干渉、その時まで!貫く、その時まで!呪術界にサヨナラバイバイ〜!!めっちゃ、出会うけど、頼む!止めてくれ!!

「おはよ、しきちゃん!がっこう行こ!」

テッテレー、ピカピカのランドセルを背負い斑鳩偲喜は、小学生にレベルアップした!そして天使・悠君が迎えに来た!コマンド:突進/ハグ/殴る/蹴る。

「さっさと行ってこんかぁ!!」

因みに、相棒?いや、図鑑ポジションの豆太郎は今日も小姑だよ。

「ん?偲喜ちゃんどったの?」
「いや、昨日のアニメをちょっとね。」
「偲喜ちゃんって、アニメほんと好きだよな!」
「まぁね、娯楽としては最高だよ。」
「ははっ、バトルもんしか見ない癖に〜。」
「む、戦闘にはロマンがだな。」
「はいはい。でも、クラスの女子と話す時辛くね?たまには恋愛ものとかドラマも見てみなよ。」
「くっ、悠君…キューティーなハニーは母さんNGなんだ!」
「めっちゃ、悔しそうじゃん!!」

宿儺と殺し合うその時が来るまで、無干渉を貫くと宣言した早々に呪詛師に勧誘受けるわ、遭難して呪術師に助けられるわ。全く回避できていないことに頭を抱え、その後は大なり小なり呪術師やら呪霊を見かける度、全力で避けている。呪霊?そもそも弱い奴は、豆太郎と私を畏れて寄ってこない!あいつ等の習性忘れてた!なんてこった!!

『ま、呪術師も呪詛師も変な格好か、黒ずくめが多いと気が付けばこっちのもんさ。』

そんなことを言いつつも、おかげで残穢のコントロールと気配察知の精度が昔より段違いに上がった。まぁ、全部雑草から花か野菜か分かるようになった程度だけど。呪力は幸か不幸か宿っているのは魂の方なので、裡に干渉できるもしくは、かなり目がいいか、実力のある奴でないと分からない。

『そろそろ術式が外身に馴染む頃だな。』

転生と言うには雑な、むしろ呪霊を受肉させたと言った方がしっくりくる肉体構造に呆れながら、筋トレも増やし、最近は豆太郎と対戦したりしている。すべては最終目的のため、とは言え今は、と隣でケタケタ笑う悠君に視線を移す。小学校に入学し私達の世界は広がった。それでも根本にある、登下校の最中にくだらない事や、昨今のテレビネタで笑いあう悠君、帰宅すればあたたかな夫妻と狛犬の姿。

『あぁ、尊いな。』

今日も平和なりやと、満足げに頷いた私を時間を遡れるならば殴り殺したい。目の前に倒れた眼鏡の少年を前に、私は何年かぶりに盛大なため息をついた。

発端は些細なこと。

「偲喜!サッカーやろうぜ!」
「偲喜ちゃん!今日こそ私達と縄跳びやろう!」
「えっと…。」

やれどちらが先に声を掛けただの、どちらが何度誘っていただの、目の前で言い合う男女の熱意に感心しながらも、意を決して声を掛ければ、阿吽も驚くシンクロ具合で『どっちと遊ぶの!?』と問い詰められた。見かねた悠君が、交代でどっちもやればいいんじゃないと助け舟を出してくれてよかった。そして放課後の校庭。じゃんけんで縄跳びからになったので、先に女子組と長縄跳びを。ある程度したところでサッカーに切り替えたのだ。

「来い、偲喜ちゃん!」
「甘いぞ悠君!」
「あ!マーク2人とかズリっ!!」
「いけ〜!シュートォォ!!」
「あ?せいやぁあああ!!!」
「ちょ、偲喜ちゃん!?そっち草むら!!」
「ふっ、ニ/ヤ/ー/スの尻尾がね…。」
「またまた〜。偲喜をボール探しの刑に処します!」
「はいな。じゃあ、ちょっと行ってくるよ。」

長縄でもしてて〜とサッカーボールの飛んでいった雑木林に入る。少し進むと、転がる目当てのサッカーボールとどこかで見たような服の男。

「ちょっと形が違うけど、ジャムお兄さんとボタンが同じだね。」

気絶した少年を観察すると、いつぞやか見た渦巻のボタン。つまり呪術師という訳だ。だが、気にかかるのは彼が持っている呪物の方。

「敷地内にもう1人いるけど。なんで『こんなもの』持ってる?」

来ている呪術師達の呪力は並以下で、豆太郎の居ない今、下手な動きをしなければバレるはずはなかった。しかし索敵センサーに引っかかった強力な呪力。無遠慮に少年のポケットを弄ると木箱が出てくる。封も何もない木箱を開けると、札を巻きつけられた丸い塊がひとつ。

「粗悪品じゃな。」
「おや、警邏中?」
「ふん、散歩の間違いであろう。」
「これさ、呪術師が盗み?」
「いや、置いたのも呪術師じゃ。遥か昔だったがの。」

懐かしむように目を閉じた豆太郎が語る内容は呆れる内容だった。それは、学校や病院など人間の負の感情がたまりやすい場所に、魔よけとして強い力を持つ呪物を置くことで、それ以下の呪いを遠ざけるというもの。

「呆れて物も言えないな。」
「同感だが、強者を呪って世に縛る奴等じゃぞ。」
「あー、似た発想だ。」
「ふん、『人間』とはそういうものじゃ。」
「という事は、そろそろ封印しなおしたいってとこかな?」
「じゃろうな。呪力が漏れ出ておる。」
「この分じゃ私たちが居ても、近いうちに寄ってくるだろうね。」

関与したくはないなと木箱を青年のポケットに戻したところで、呻き声が上がった。

「んん゛、あれ?」
「お兄さん、起きた?」
「ヒッ!?え、お、女の子??」
「目は大丈夫そうだね。痛いところはない?」
「え、ええ。あの、君は?」
「私がけったボールがお兄さんに当たって、倒れてたの。」

ピッと転がるサッカーボールを指さすと、少年は思い出したように鼻をさすっている。いいとこ入ってたんだね。

「ボール、ごめんなさい。」
「あ、いえ、こんなところに居た私にも非はありますから。お相子という事で。」
「ん?許してくれるの?」
「ええ。これからはコントロール気を付けてくださいね。」
「わかった。」

人の好さそうな少年に合わせて、謝罪から一転にこにことした表情を見せれば、ほうと彼が肩から力を抜く。おおかた、呪物に寄せられた呪霊にでも襲われたと思っていたのだろう。遠からず当てはまることに苦笑しそうになるのを堪え、ボールを拾いそそくさとその場を後にする。

『まぁ、封印よろしく頼むよ。』

呪力は使っていない。私達の残穢も見えない。去り際にそれだけ確認し、皆が待つグラウンドへ。戻ったら、何故かゴールキーパーに任命された。


2010年X月X日(晴れ) 宮城県仙台市
記入者:――
呪術高専4年生2名にて、□□小学校に配置された呪物『身代鏡』を回収。高専所属の呪術師により再度封印を行った。

なお、当任務にあたった生徒、伊地知潔高は本人の希望及び適正を踏まえ、以降補助監督として高専に所属することとする。

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