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「んん゛――」

薄暗い部屋で、虎杖は目を覚ました。

『どこだここ?俺何やって…』
「おはよう。今の君はどっちなのかな?」
「…あんた確か…」
「五条悟、呪術高専で1年を担任してる。」
「呪術…先輩!伏黒、偲喜は!」

一気に蘇る夜の記憶に駆られ前のめりになる。がしかし、ギチリと後ろから阻まれ。

「あ?」

頭だけ動かし見えた物は、綱のようなモノで縛られた両腕。動かそうともがいても、緩む気配すらない。

「なんだよコレ…?」
「他人の心配してる場合じゃないよ。虎杖悠仁――君の秘匿死刑が決定した。」

・・・・

「さて、私は呪詛師ではないよ。呪術と関わりたくなくて逃げてただけさ。なんなら、話し次第では、私達の目的は一致するとだけ言っておこうか。という事で、ここでクエスチョンの続き行ってみよー!」
「…さて、ここでクエスチョン。彼をどうするべきかな?」
「…仮に器だとしても、呪術規定にのっとれば虎杖は死刑対象です。」
「うん、うん。」
「でも、死なせたくありません。」
「ほぉ。」
「…私情?」
「私情です。何とかしてください。」
「クックック」
「?」
「可愛い生徒の頼みだ!任せなさい!」
「はっはっは。」
「君は後で、みっちり話聞くから。」

・・・・

「ってな訳で改めて、君、死刑ね。」
「…回想と展開があってねーんだけど。」
「いやいや、頑張ったんだよ。死刑は死刑でも、執行猶予が付いた。」
「執行猶予…今すぐじゃねえってことか。」
「そ。一から説明するね。」

意図的に省かれたであろう偲喜の情報にヤキモキしながら、急に言い渡された死刑のことも、目の前の情報源からしか聞けぬのだと意識を戻す。ごそごそとポケットを漁っていたアイマスクの男が取り出したのは、昨晩自分が飲み込んだ呪物と同じ形をした物で。

「これは君が食べた呪物と同じものだ。全部で20本。うちではその内の6本を保有している。」
「20本…?ああ、手足で」
「いや、宿儺は腕が4本あるんだ。」

ぽいと放り投げられた指を視線で追っていたら、何かに弾かれて壁に押し付けられた。

「!!」
「見ての通り」

札の張られた壁が凹んでいるが、その中央にある指はそのままの形を保っている。

「これは壊せない。それだけ強力な呪いなんだ。日に日に呪いは強まってるし、現存の術師じゃ封印が追い付いてない。そこで君だ。」
「?」
「君が死ねば、中の宿儺も死ぬ。うちの老人共は臆病でね。今すぐ君を殺せと騒ぎ立ててる。でもそんなの勿体ないでしょ。」
「勿体ない?」
「宿儺に耐えうる器なんて今後生まれてくる保証はない。だからこう提案した。どうせ殺すなら、全ての宿儺を取り込ませてから殺せばいい。」

息を飲んだ。

「上は了承したよ。君には今2つの選択肢がある。」

ばちりと視線が交わった気がする大男が、淀みなく言葉をつづけた。

「今すぐ死ぬか、全ての宿儺を見つけ出し、取り込んでから死ぬか。」

告げられた2択に対して、一言も返す言葉は出て来なかった。

・・・・

『1日ぶりなのに、懐かしい気分がする。』

通い慣れたはずの病院の廊下が、虎杖には今までと違って見えた。聞いていた病室に辿り着いて、開いたままの扉をノックする。

「虎杖…」

焦燥した佐々木先輩がパイプ椅子に腰かけていた。

「井口先輩どんな具合っすか?」
「大丈夫…ってお医者さんは言ってたけど、まだ意識が戻ってないの。」

下を向いてしまった佐々木先輩の拳が、スカートの上で更に握りしめられていく。

「私のせいなんだ…。私が夜の学校なんて誘ったから…。信じられないと思うけど、変な化物が襲ってきて、私も捕まって…」
「信じるよ。」

ぽろぽろと零れ落ちる涙に、あれ先輩のせいじゃないと強く思い、言葉を被せてしまった。

「あいつらは化物じゃなくて呪いなんだ。あの指は、特級呪物って言って、呪いを寄せたり強くする効果があったんだよ。」
「虎杖?」
「だから悪いのは先輩じゃなくて、あれを拾ってきて、偲喜の忠告無視して元の場所に返さなかった俺だよ。ごめんな。でも、大丈夫。明日には井口先輩治せる人が来てくれるから。」
「…」

呆然と話を聞いてくれていた佐々木先輩と、未だ眠っている井口先輩を交互に見て、生きていて良かったと心底思う。

「悪い先輩。俺、行かなきゃならない所があるんだ。バイバイ。」

もう会う事もないだろう2人にさよならを告げた。

「亡くなったのは?」
「爺ちゃん。でも親みたいなもんかな。」
「そっか、すまないね。そんな時に。」

病室から出ると、待っていた五条と一緒に火葬場へ。快晴の空へと昇る煙をベンチから眺め、五条からの質問に回答していく。唯一こちらから聞いた、偲喜は無事か、会えるかとの問いへの回答は、無事だけど今は駄目だった。

「で、どうするかは決まった?」
「…こういうさ、呪いの被害って結構あんの?」
「今回はかなり特殊なケースだけど、被害の規模だけで言ったらザラにあるかな。呪いに遭遇して、普通に死ねたら御の字。ぐちゃぐちゃにされても死体が見つかれば、まだましってもんだ。宿儺の捜索をするとなれば、凄惨な現場を見ることもあるだろうし、君がそうならないとは言ってあげられない。ま、好きな地獄を選んでよ。」
「…」

脳裏に過るあの夜のボロボロの伏黒、先ほど見た意識の戻らない井口先輩、自分のせいだと涙を流す佐々木先輩の姿。

お前は強いから人を救けろ――

「宿儺が全部消えれば、呪いに殺される人も少しは減るかな…」
「…勿論。」

強い肯定を受けて、虎杖は覚悟を決めた。

「あの指まだある?」
「ん。」

むき出しのまま渡された指をまじまじと見る。日の下で見るのは初めてで、昨日は分からなかった細部までよく分かった。

「改めて見ると気色悪いなぁ。」

それでも迷いなく口に放り込み、嚥下する。

『さて2本目、1/10かどうなる?』
「クッ、ククッ。まっず。笑えて来るわ。」

一瞬垣間見えた圧も紋様も消え、まずいと涙目の虎杖を見て、五条は万が一に備えていた手を降ろす。

『確定だね。肉体の耐性だけじゃない。宿儺相手に難なく自我を保てる。1,000年生まれてこなかった逸材。』

「くっくっくっ」
「どったの?」
「いや、なんでもない。『覚悟はできた』ってことでいいのかな?」
「…全然。何で俺が死刑なんだって思ってるよ。でも呪いはほっとけねぇ。本当、面倒くせえ遺言だよ。」

この短くも濃厚な時間の間に、何度だって自分を振るいたてた言葉が、またリフレインする。

「宿儺は全部喰ってやる。後は知らん。自分の死に様はもう決まってんだわ。」

お前は大勢に囲まれて死ね――

「いいね。君みたいなのは嫌いじゃない。楽しい地獄になりそうだ、ねぇそう思わない?」
「ん?それ俺に聞くの?」
「いいや、こっちの話。んじゃ、今日中に荷物まとめておいで。」
「?どっか行くの?」
「東京。」
「伏黒!!」

はぐらかされた感満載だが、思いがけない伏黒の登場にそれを指摘する気はなくなって。包帯だらけの伏黒を見て、こいつも生きていて良かったと安堵する。

「元気そうじゃん!」
「包帯見てそう思うか?」
「え、元気じゃないのか…?」
「お前はこれから、俺と同じ呪術師の学校に転入するんだ。」

――東京都立呪術高等専門学校――

「因みに1年生は君で3人目。増えるかは未定!」
「少なっ!!」

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