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「斑鳩は居るか!!!」

バァン!と教室の扉が外れそうな勢いで開かれ、すわ何事かと机の下に隠れる先輩方。斑鳩は1人、またかと深いため息をついた。

「高木先生、その件は何度もお断りを」
「皆まで言うな斑鳩!」
「あ゛?」
「和風美人のドスの利いた声頂きましたー!!!」
「ば、空気読むでござるよ!?」
「虎杖と斑鳩、2人が揃えば全国大会制覇など容易い事!しかし、2人揃って文化部にっ!?」
「あれ、おかしいな。今、文化部舐められませんでした?」
「ふふふ、俺は思いついた!」
「あ、話聞いてねーぞ、あのセンコー。」
「これから虎杖と正々堂々勝負を行う!俺が勝ったあかつきには、2人とも陸上部に入ってもらうぞ!」
「待とうか。なんで悠君に私のことまで背負わせてるのかな?」
「斑鳩ガチギレしてない?」
「よーし、オカ研の教室に行くぞ!」
「はっはっは、待てや。」

意気揚々と廊下を歩いていく高木には嫌味も何も効かないらしく。部員全員が引き攣る頬を携えてその後を追った。

「虎杖悠二!お前の籍がオカ研ではなく陸上部にあり、同好会定員の3名に達していないということだ!」
「へ?」

オカ研が使用している教室に近づくにつれて聞こえてきた騒動。不穏な雰囲気を感じる私達を他所に、よほど自信があるのだろう腰に手を当てて悪びれることなくドアの前で己がやったと白状する高木。

『うわぁコイツ本当に教師か?』
「陸上部顧問高木!って、偲喜と漫研の先輩たち!?」
「虎杖、全国制覇にはお前と斑鳩が必要だ。」
「しつけーな!何べんも断るって言ってんだろ!てか、偲喜まで巻き込むなよ!」
「駄目だ!」
「駄目なの!?」
「悠君、この人話聞かんのだよ。」
「だが俺も鬼ではない!」
「この流れで!?」
「ほらな。」
「正々堂々、陸上競技で勝負だ!」
「ほう。」
「俺が負けたらお前と斑鳩のことは諦めよう。だがしかし!俺が勝ったら…。」
「だから、どうして悠君の勝ち負けで私の部活動まで」
「皆まで言うな。面白れぇ…偲喜の為にも、やってやんよ。」
「悠君?君も人の話聞いてるかい?」
「よし!行くぞ虎杖!斑鳩!!」
「応っ!!行くぞ偲喜!!」
「おい!ったく、何で勝手に進めるかねぇ…」
「大丈夫でござるよ、斑鳩氏。汝も人の話聞かない奴でござる。」
「せーんぱい?」
「い、いっくぞ〜〜!!」

音が付きそうな程にっこりと微笑むと、何故か駆け出していく漫研の先輩方。オカ研の教室に強い宿儺の気配を感じながら、取り残されたオカ研の先輩方に声を掛ける。

「斑鳩さんも大変ね。」
「はっはっは、いつものことですよ。ところで、さっきのは?こっくりさん?」
「そー、でも途中で生徒会長来ちゃって、ラグビー場の検証報告をちょっとね。」
「封鎖されてるアノ?」
「ああ。体調を崩す直前に奇妙な物音や声を聞いたやつがいたらしくてな。俺達はオカルトが絡んでるとみて、調べてみたんだ。」
「そしたらなんと30年前に、建設会社の社員が行方不明になったって記事があってね!その最後の目撃情報が建設途中の杉沢第三高校だったのよ!!」
「へぇ…」
「それで、ラグビー場には遺体が埋まってて、一連の騒ぎはその行方不明の社員の怨霊だって会長に言ってみたんだが…」
「マダニが原因だったって一刀両断されたわ…」
「どっちにしろ、近づかないに越したことないですね。」
「むぅ、斑鳩さんも人が悪いわね。」
「はっはっは、よく言われます。」

校舎を出て、斑鳩は件のラグビー場の方角に視線を送る。『おおおおお。』気味の悪い鳴き声がかすかに聞こえてきて、居るんだよなぁと内心でため息をつく。

『おや?』

呪霊以外の呪力の気配。宿儺の呪力のせいで微かではあるが、感じる知らない呪力。

『ふむ、そこそこ出来そうだな。タイミング的に、宿儺の指を回収しに来たか…。さて、どうしたものか。』

悪くない呪力量、ラグビー場の奴程度なら任せても死なないだろう。指を回収させて、封印をし直させるのが良いか。それともそれとなく妨害して、あの馬鹿に受肉するきっかけを与えるか。

『正直なところ、このままだと埒が明かない。アイツは恐らく最全盛期の筈で私はこの様。胆力、技術、柔軟性、そのあたりは女の体でもどうにか出来るとして、問題はリーチの差。流石に男だった時の間合いをこの体で再現するのは不可能だ。届かん。後は年齢だな。老いた状態で勝てるような輩なら前世で殺せている。』

目の裏に浮かぶ熾烈な攻防の数々。切っては切られ、焼かれては焼いて、殴っては殴って蹴り返す。憎たらしい嗤い声まで蘇って、頭を振る。

『そもそも、私が寿命を迎えるまでにアイツが受肉しなかったら?おいおい、まさか即再転生とかないよな?いやタイミング的に、私が肉を得る直前に恐らく生まれているからなぁ…それはないか。しっかし、私が指壊したって意味ないからなぁ…。』

悠君が持っていたであろう指を壊すことも考えたが、豆太郎に聞けば、そもそも20本のうちの1本と言うではないか。つまり残り19本を探して、壊すという流れになってしまう。その場合、今でさえ気配がデカい、潜んでいる、取り込まれてよく分からなくなっているの3パターン化した指が簡単に見つかるのかという問題が出てくるのだ。

『そのルート選んだら、どう考えても人生1度じゃ足りんぞ。確実に再転生…。いやいやいや、その頃にはどれだけ呪われてることやら。うへぇ、考えるのはよそう。』

更に増大した呪いに塗れた己を想像して、鳥肌が立つ。ふるりと震えた後、大勢が既に集まったグラウンドで招かれるまま景品と言う名目で最前列で彼らの砲丸投げを観戦することになった。

「あ〜、それでは、泣いても笑ってもこれが最初で最後、チキチキ砲丸投げバトル開催しまーす。」
「あ、斑鳩氏、意外にノリノリでござる?」
「えー、勝者は悠君以外認めません。頑張るんだぞ、悠君!」
「おー!まかしとけ!!」
「Boo,Boo!!」
「ふっ、どうやら外野は俺の勝利を望んでいるらしい!先に投げさせてもらおうか!?」
「どーぞー。」

サークルに入った高木が見事なフォームで回転しだす。掛け声とともに投げられた砲丸は一直に飛び、扇状の線をいくつか超えたところでどしゃりと地面に落ちた。

「14m!!」
「お〜!!」
「スゲー高木。全然現役じゃねーか!どーする虎杖!」
「このままじゃ斑鳩取られんぞ〜!」
「え、これってそういう戦いなの?」
「おい、そこの君!それは犯罪だ!これはあくまで2人の陸上部入りを賭けた戦いだ!」
「あ、生徒会長、説明乙っす!」

パチパチと拍手やら感嘆する声が聞こえる中、余裕そうな悠君に勝利を確信する。残念だな、皆の衆。悠君の実力をとくと見よ!

「ねぇ、虎杖って有名なの?」
「ほえ?」
「眉唾だけど、SA●UKE全クリしたとか。ミルコ・ク●コップの生まれ変わりだとか。」
「死んでねぇだろ、ミ●コ。」
「ククッ。」
「ついたあだ名が『西中の虎』」
「ダサくない?で、実際どうなの斑鳩さん?」
「ふふ、見てれば分かりますよ。まぁ、強いて言うなら、この勝負悠君の勝ちですね。」

指さした先、砲丸を持った悠君が高木に投げ方の確認を行っている。どうぞご自由にと了解を得た悠君がサークルの中心で体制を整えた。高木が何やら頷く横、大きく振りかぶった右腕から鉛とは思えない音を立てて砲丸が飛んだ。

ゴイイイイン――

「おっし、俺の勝ち。」

しゅううと湯気を立てて凹むサッカーゴールにめり込んだ砲丸。その距離約30m。静まり返るグラウンドに軽い悠君の声が響く。

「ほらね。」
「虎ってよりゴリラじゃない?」
「ピッチャー投げだったな…」
「聞くところによると、斑鳩氏も虎杖氏に負けず劣らずだとか…」
「はっはっは、体力測定1、2位を常に争ってますから!」
「…もしかして斑鳩もゴリラ…?」
「え?人ですよ?一応ね。」
「一応…」

未だ放心する高木に一声かけた悠君がこちらへと駆けてくる。お疲れさまと鞄を渡す。悠君が俺勝ったよとはにかんだ。

「幼馴染ラブ再びっ!!」
「そ、そんなんじゃないから!」
「はっはっは、悠君、先輩の言う事いちいち真に受けてたらもたんよ。スルーが一番!」
「え、斑鳩氏、そんな風に思ってたの?」
「はっはっは。」
「ねぇ、虎杖。斑鳩さんは知らないけど、アンタ別に無理してオカ研残らなくてもいいのよ?」
「え?」
「運動部の方が才能発揮できるんじゃない?」
「いや、色々あって5時までには帰りたんだよね。でもウチ全生徒入部制じゃん。そしたらさぁ…」
「何もしなくていい、ユウレイでいいのよ、オカ研だけに。だったかい?」
「それ、部活動勧誘の時の私の…」
「そ!つーか先輩ら、俺いないとロクに心霊スポットいけないじゃん。怖いの好きなくせに。」
「「う。」」

好きだから怖いのよとそっぽを向く佐々木先輩にクスリと笑う。怖いもの見たさ、好奇心は猫をも殺すと言うのに、いつの世だって人とはこういう生き物だと。

「先輩らがいいならいさせてよ。結構気に入ってんだ、オカ研の空気。」
「そういう事なら私らは別に。」
「なあ。」
『ひと段落だねぇ…』

デレデレと微笑ましい2人と?マークを飛ばす幼馴染の様子を見守り、ふと感じた視線を無視する。

「悠君、時間いいのかい?」
「ああっ!?もう半過ぎてんじゃん!あんがと偲喜!」
「爺様に今度会いに行くって伝えといてー。」
「おっけー。いそげー。」

駆けていく悠君とすれ違う黒髪の男子。交差した直後、バッと振り返って悠君を追っていく様子を眺め独り言ちる。

「さて、どうしたものかねぇ…」

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