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2018年5月X日 宮城県仙台市 杉沢第三高校

「今年こそ文化祭で同人誌を出しますぞ!!」
「いや、それ生徒会長にNG食らったじゃん。」
「もっと健全なうんたらをーでしたっけ?」
「勿論、健全に決まっておろう!その同人誌=二次創作&不健全と言うレッテルをですな!」
「巷の認識がそうなんだから仕方ないでしょ?そもそも今の世の中、一次だろうが二次だろうが、公共の場でパンピー相手にぶちかますなって話よ。」
「ぐぬぬぬ、時代の変遷めぇええ!!」
「そういう事です。あ、斑鳩さんは何したい?」
「自分、アニメーションの素晴らしさを伝えたいっす。」
「徹底して斑鳩氏はアニメ派でござるな!」
「書物も捨てがたいのですが、動く喋る、あぁいとおかしきかな。」
「馬鹿も斑鳩も、戻ってこーい。」

無事進学した杉沢第三高校。5月のとある放課後、漫画研究同好会のメンバーが集まる教室では少し早いが、今年の文化祭に向けて何を制作するかの会議が行われていた。まぁ、毎年同人誌を出したいと主張し、生徒会からNGを食らっては、仕返しとばかりに10分アニメーションを制作したり、漫画で見る時代の変遷をパネル展示したり。

『それが好評だと言うのだから、もはや一種の茶番なんだよな。』

歴代の部員の皆さまが制作してきた、仕返しと言う名の渾身の力作はそれはそれは凄まじく。高校生の文化祭の域を超えそうなレベルのそれは、杉沢第三高校文化祭の一種名物と化している。つまり、教師、生徒たちからすると、生徒会との衝突含めて今年も待ってました!的な感覚なのだ。出来レース甚だしいが、ここまで根付いているのであれば、楽しまなければ損というもので。全力で乗っかっている斑鳩であった。

「先輩たちこんちゃーっす!偲喜いますか?」
「悠君、どったの?」
「むふっ!夫婦漫才、始まりの予感。」
「ちょ、そんなんじゃないっすよ。」
「そうですよ、悠君はもっとこうボンキュボンなグラマラスお姉さまがこのんぐ」
「偲喜!?どこで聞いたんそんなこと!!?」
「んーんー。」
「ぐふっ、幼馴染鉄板ネタ――!!!!」
「ね、偲喜、あの先輩大丈夫?」
「んんんーん。」
「そっか、なんかあったら相談しろよ?」
「んーんん。」
「じゃあ俺、爺ちゃんとこ行ってくっから。帰ってなかったら玄関にでも置いといて。」
「ん。」
「なーんでそれで会話成立すんの。リア充爆発しろ。」

ジト目の先輩方の視線を受けながら、先ほど立ち去った悠君を追いかける。階段で追いついた彼を呼び止める。不思議そうにこちらを見上げる悠君から、濃い宿儺の呪力を感じた。

「どったの偲喜?」
「悠君、なんか変な物拾ったかい?」
「変なもん?あ、木箱拾った。オカ研の」
「悪いこと言わない、元あった場所に返しておいで。」
「へ?」
「斑鳩ー!はよ戻ってこーい。」
「はーい。じゃあ、そんだけ。爺様によろしくね。」
「ちょ、偲喜!」

呼び止める悠君を無視して、くるりと背を向ける。何故と聞かれても、それは良い物じゃないからとしか答えられないし。なによりそんな回答をしてしまえば、オカルトに興味を示している先輩方の好奇心を擽りかねない。

『後は悠君の判断に委ねるしかない、か。』

自分から宿儺に接触し、死蝋が暴走する可能性。宿儺の一部が目の前にあることで騒々しくなった、私を縛る呪いが暴走するのが先か。

『できれば、悠君を巻き込みたくはないんだがな。』

砂時計はひっくり返された。
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