ヒロッターで婿を募集した件について@mirage_xxxx



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皆様にご報告です。
「よっし、今日は何事もなく終わりましたね!」

「そーだなー。暇だっ!」

「暇は、不謹慎ですよ。」

終業時間まで後10分。今日は出動要請や、パトロールで事件に遭遇する事もなく1日穏やかだった。そんな中、相方が暇だ暇だと駄々をこねる隣で、私は死刑宣告を待つ囚人のように緊張と不安が押し寄せてきていた。

『うう、夜になるのすっごい不安…。でも私、しょ、消太先輩の彼女になったし。流石に誕生日はね、お祝いしないと…。』

そう、今日は恋人である相澤消太さんの誕生日なのだ。ヒロッターに爆弾を投稿した後、前々から好意を抱いてくれていた消太先輩と漸く恋心を自覚した私は、何だかんだありながらも良いお付き合いをさせてもらっている。恋人と言えば、やはり記念日とかは祝いたい。そんな乙女心を持て余し、でも一般人としか付き合ってこなかった私はこれまたやらかしたのです。

〜数週間前〜

「今日も学校お疲れ様でした!」

「ああ。鏡子もな。」

相澤家でお泊まりデートをしていたある晩、缶ビール片手に乾杯をしてとりとめの無い会話をしていると、ふとテレビで世の中のカレカノ事情的な番組が始まった。それをBGMにしていたからか、聞こえてきた誕生日と言うワードに敏感に反応してしまったのだ。

「!?あ、ビール!!わわ!台拭き、え、ティッシュは!?」

「…ほら。」

「す、すみません!セーフですから!床には溢してないんで、そんな目で見ないでくださいよ〜。」

「いや、それは良いんだが。いきなり缶ビール落としてどうした?」

「へ、あー、いや?」

「おい、ふざけんな。隠し事は?」

「無しです…。」

「んで?」

「えーっと、消太先輩って誕生日もうすぐでしたよね?」

「ああ、テレビか。」

「ちょ、変な納得しないでくださいよ〜。」

『相変わらず、鏡子は左右されやすいな。』

「む、折角お祝いしようと思ったのに。」

「悪かったよ。夜空けとくから、剥れんな。」

「むむ、そう言うのズルいです。」

女性の扱いが分かってる。なんてスマートなんだと感心していた私は、それまでの相手と同じ様に問うてしまったのです。

「消太先輩は何が欲しいですか?」

「は?」

「へ?誕生日プレゼントいらないんですか?」

「いや…。」

凄い残念なものを見るような顔で私を見てくる消太先輩。何かしただろうかと首をかしげると小さくため息が聞こえてきた。

「あの、もしかして祝われるの嫌でした?」

「あー違う。三十路になってまで、んなこと聞かれると思わなくてな。」

「確かに、消太先輩なら非合理的だーって断りそうですもんね。んー、でも恋人としてはお祝いしたいんですよ!なので何かリクエストどうぞ!」

「って言われてもなぁ。」

「何でも良いですよ?」

「何でも…本当か?」

「え?まぁ、私に出来る範囲ならですけど。あ、マイク先輩とか猫化個性写して来いはだめですよ?」

「猫なら兎も角、何でマイクなんだよ。」

「消太先輩仲良いじゃないですか!ご本人登場なら良いですけど、私達公害コンビなので。」

「マイクはいらねえよ。それで、二言はないんだな?」

「…どうしよう、凄い怖くなってきました。」

「鏡子…。」

「は、はい!二言はありません!!なんなりと!!」

「分かった。考えて連絡する。」

皆さんお分かりでしょうか?私はやらかしてしまったのです。あの合理性を突き詰めた消太先輩に宣言してしまったのです。『何でもする』と…。

『ばっか、バカ!!何であんな事言ったのよー!!!』

相方の暇発言に不謹慎と言っておきながら、今日1日事件に駆り出されたいと願っていた。どっちが不謹慎だと心の中で己を叱咤するも、終業時間になった瞬間、絶望を感じたのは間違いない。

『ううぅ、もう家まで後少し…。鏡子、諦めは肝心よ…。』

見えてきた自宅に、行くとこまで行き着いた心境の私。何故ここまで及び腰なのか?それはですね、あの合理的彼氏様のリクエストがですね、『夜、家に行くから待っててくれ。』だったからです。

『ただ待っててくれって、どういう事!?待ち合わせるなら何処かお店予約しますかって聞いても、お前の家でいいしか帰ってこないし!!』

悶々と考えるた数日。結局家に居ること以外の要望もなくて、辿り着いたのは家ご飯だ。そう言うのじゃないとか、いつもの家デートと変わらないんじゃと冷や汗を掻いたけど、もう思考はそこから離れてくれなくて。両手に持っている小さめのホールケーキも普段より豪勢になる予定の料理達も、必要ないと言われたら私の明日のご飯になるだけ。それを悲しいと思うのは、何人か前の彼氏で失くなっていてよかったとため息が出た。気を取り直すように頬を張って、料理に専念し始めると時間が経つのはあっという間。完成したと思ったのと同時に玄関を開ける音が聞こえてきた。

「お帰りなさい!早かったですね。」

「…あぁ。」

『何だろ今の間??』

エプロンを脱いで出迎えにいけば、ポカンとした、でも何処か空気の重い消太先輩がいた。具合でも悪いのかと口を開いたが、音が出る前に彼に声を被せられてそれを尋ねることは出来ず。代わりにずっと疑問だった事を尋ねてみる。

「消太先輩、この後どうするんですか?」

「ん、飯食って寝るけど。」

「えっと、料理は作ってますけど…。」

「ありがと。」

返ってきたまさかの回答に、言葉がつまる。

『消太先輩、本当は誕生日をお祝いするなんて嫌だったんだ。』

考えないようにしていたのだけれど、盛り上がっていたのは私だけだったのかと胸の辺りが痛くなる。そして、こうやって暴走したり、記念日などをすっぽかし(したくてしたのではなくて、緊急出動とかね…)て別れてきた過去の恋人の事が脳裏に過った。

『どうしよ、面倒な奴だって思われたら…。』

思考の悪循環を振り払おうと頭を振るが、邪推はどんどん膨らんでいく。泣くのだけは駄目だと作っていた料理を盛り付けることに専念した結果、これまた豪勢なディナーセットが完成してしまう。

「随分豪華だな。」

「す、すみません。」

「?」

「あ、食べましょっか!ささ、こちらへどうぞ!!」

妙な雰囲気になりかけたので、慌てて食卓へと促す。ルンルンな気分で選んだ筈のワインを嗜みながら、チラリと消太先輩を盗み見る。その視線に気が付いたのか旨いよと返事が帰って来た。それだけで、さっきまでのどんよりとした気持ちが吹き飛ぶ。

『我ながら現金だなぁ…。』

皿に盛られていた沢山の料理はあっという間に空になっていく。すっかり機嫌のよくなった私はまた一口とワインを口に含んだ。ふと名前を呼ばれて、消太先輩を見ると機嫌がいいような、それでいてどこか困ったような、私が初めて見るとても人間らしい表情が私を見つめている。

『先輩ってこんな表情もできるんだ…。彼女特権ってすごいなぁ。』

くだらない馴れ初めかもしれないが、この数か月で消太先輩の新しい表情・一面を沢山知った。あの機械なのではないかと疑うほどの合理主義な人のだ。そして知るたびに沼に沈んでいるのは言わずもがなと言うところ。そんな思いに浸っていると、目の前の彼は意を決した様に真剣な表情になる。

「鏡子…その、なんだ…。」

『…飽きたとかかな。それとも初めから遊びだったとか?でも…もう無理ですよ先輩。』

「あのな、」

「別れたくありません。むしろ別れるなんて、もう無理です。こんなに消太先輩の優しいとことか、セクシーで悪戯なところとか、心配性なところとか、彼女じゃなきゃ絶対知らないままだったところ沢山見せられて。私、ヒロッターで婿になってくださいって言ったんです。分かっててですよね?今更別れるなんて、」

「落ち着け!」

「っ!?す、すみません。」

「いや、すまん。鏡子がそこまで俺に惚れてくれてるなら、いらん心配だった。」

「え?」

「これに捺印してくれ。」

「はい?」

「最悪お前が寝てるときに押そうと思ってたんだが。」

「私文書偽造罪ですよ?その、婚姻届けに勝手に捺印するの…。」

「あぁ。だから、俺が犯罪者にならない為にもな。」

「なって、そんな簡単なことじゃ。」

「誕生日プレゼント。」

「っ!?」

「お前に出来る範囲、いや鏡子じゃなきゃできない誕生日プレゼントが欲しい。」

涙腺がバカになったように、視界はにじみ、涙は留まるところを知らない。ぐしゃぐしゃの顔のまま頷く私に、ほっとした様な表情で消太先輩がもう一度プレゼントの催促を囁いた。

――俺と結婚してくれ。

何とか作った笑顔で快諾すれば、さっさと捺印しろと小突かれた。



皆様にご報告です。
この度、同じヒーローのイレイザーヘッドと結婚する運びとなりました。

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