君に魔法を
綺麗な月が夜を長く見せる日、決まってデリコは眠ることができない。
幼少期、いや、件の施設襲撃事件から続く彼の憂いを知ったのは彼がファミリーに入ったときだっただろうか。それから私は任務のない長い夜の日は、彼と一緒に過ごすようにしている。最初は幼いデリコとヤンと添い寝、添い寝が厳しくなる年になるころ、デリコに告白され男女として一夜を共に。
「最初は乳臭いガキだったのにな。」
「今でも離れられてませんよ。」
事情後のベットで伸びをしていると、ペリエを持ったデリコが戻ってきた。ほぼ無表情のままで、さっきまでの情熱どこに行ったのかと疑いたくなる。
「ナナシさん…」
貰ったペリエを一口飲んでいると、そっとデリコが抱きしめてきた。
「デリコちゃんは甘えん坊ってか?」
肩に埋められた頭がぐりぐりと動く。ほんとに甘えただ。ペリエをサイドテーブルに置いて、デリコの頭をなでた。いつもさらりとした銀髪は、湿っていて、ああ彼の情熱の残り香はこんなところにあったのかと笑みが浮かぶ。
「ナナシさん」
「ん、どうした?」
埋められた顔は上げられず、当たると息がくすぐったい。
「ナナシさん・・・」
「ん?」
「ナナシっ」
湿った感触と走った鋭い痛みで、本格的に噛まれたのだとわかった。犬歯が食い込んでるんだろう、血も出てるだろうから、明日はハイネックだななんてのんきに考えているが、その間もデリコはガジガジと首筋を噛み続けている。
「デリコ…笑っていこう。」
撫で続ける手からデリコの動揺が伝わってくる。
「笑えないっていうんなら、私がこうやって甘やかして、魔法をかけてやるから。」
首筋から胸元に流れていく水滴を感じながら、私はデリコの旋毛に唇を落とした。
君に魔法を
(泣かないで愛しい人)