ハニーエスケープ
「イッヒ リーベ ディッヒ!!」
目の前にやってきた小町艦長が突然そう叫んだ。変顔付きで。
「また、アドルフさんの真似ですか?」
「なんだ。ナマエ知ってたのか?」
「シーラから聞きましたよ…」
私のどんな反応を期待していたのか知らないが、とても残念そうな彼。その表情は、悪戯の失敗した子供の様。
『訓練時とのギャップが激しすぎるのよね。』
少年から体だけ成長した様な普段とは違い、訓練時は熱い志が迸る。その魅力に引っかかった女子は多い。さっきのシーラもその一人。
「おーい、ナマエ。先に鍋食いに行っとくぞ。」
「どうぞ。私は一度部屋に戻りますから。」
そこまで言うと、私は踵を返した。しかし、背後の小町艦長が動く気配がしない。不思議に思いつつ、歩みを進めた。
「ナマエ!!」
大きな声で呼ばれ、慌てて振り返る。そこにはさっきと全く変わらない小町艦長の姿があった。
「さっきの本気だから!」
それだけ言って、艦長は角に消えてしまった。
「艦長、言い逃げしないでくださいよ…」
廊下に私の溜め息が響いた。
ハニーエスケープ
(ちくしょー。言っちまった…)
(あ、早くしないと燈に全部食べられちゃう。)