グラウンドからの情景
ひたすら走る。
息が切れても、ちょっと足が重くなっても走る。

地元の島にいたころから欠かさない日課。あの頃は港から見える水平線から出てくる太陽を見るのが一つの楽しみだった。今は港も海もない。大きな建物と広いグラウンド。空気も湿気は少なく乾燥している。潮風なんてどこにも吹いていない。

かつての戦う理由は亡くなってしまった。目だってがむしゃらに治療したのにどうにもならなくて、絶望に打ちひしがれて腐ってたんだと思う。そんな時にミッシェルさんが訪ねてきてくれた。思い切って飛び込んでみたら、俺を知ってる人たちがいた。ファンだと言ってくれた青年もいた。うれしくて、初めて友達ができて、母さんが望んだ世界に少し近づいた気がした。

この素敵な世界に引き込んでくれた人には大いに感謝してる。一度ミッシェルさんにお礼を言ったときに現役時代を知っている人から紹介されたんだと聞いた。最初は燈君当たりかなと思っていたけれど知らないらしく今でも探している。そんな中一人だけ、この人だったらいいなと思う人がいた。

周回しているうちに、ふと目をやった窓際に今日も人影がある。見ているのを気づかれたくなくてあまり見ないようにしているからその人かどうかはわからない。時折、小町館長が名前を呼んで、その人影が去っていくことがあったから間違いはないと思っている。

どうして話しかけてくれないのか?

どうして自分は彼女に、ナマエさんに話しかけることができないのか?

今日こそは、この周回が終わったら窓辺の彼女に声をかけよう、そう意気込んで

「おーい、慶次!今日も気張ってんなー!!」

聞こえてきたのは快活な小町館長の声。視線をやればそこは自分が声をかけようとしていた窓辺で館長に取られた手を放してもらおうと動くナマエさんの姿があった。

仲がいい。二人の姿はよく見る。ナマエさんも割と古株らしく新参者の自分には入れない世界が広がっているとそう思う時だってある。周囲は二人はそんな関係ではないというけれども・・・

『あんたから動かなきゃ始んないよ!』

そうだよな、母さん

「ナマエさん!」

あ、びっくりしてる。

「負けませんから!!」

たぶんよくわかっていないみたいだけど、手を振ってくれたから希望はあると拳を握りしめた。


グラウンドからの情景


(見上げるあなたはとても気高く)



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