心の叫び
紅が舞う。
一瞬、だが、俺にとっては永遠にも近い時間。
秋ちゃんの時だってそうだった。俺の不注意で、一瞬にしてゴリラと呼びつつも愛に満ち溢れた日々は消え去ったんだ。
火星から戻った後も周囲は変われど、俺の心は火星に置いてけぼり。つい最近まで、俺はこのまま火星に囚われて、次は死にに行くのだと思っていた。
「艦長、これどーすんの?」
「んー、ミッシェルちゃんどうしたらいい?」
死にに行くのではなく、救いに行くためだと分からせてくれたのはアネックスの若いクルーの1人だった。彼はウイルスに侵された妹さんの為に手術を乗り越えた青年だ。俺や燈と理由は異なるが、熱い意志を持った奴だった。
「ウイルスを持ち帰っちまったのさ、俺のせいだよなぁ、」
酔った勢いで口から出た一言。その場にナマエがいて、あぁしまったと混濁した意識で後悔したんだ。
「来ちまったもんはしょうがねーと思いますよ。ってか、きっかけがなくても飛来してたり。そう考えると、原因が分かってる今のがよっぽどいい。」
強い。なんて強い奴だと思った。俺だったらきっとそうは考えられない。喚いて、怒って、今の俺の立場のやつを殺しちまう。
「おう、ナマエ!」
ナマエの一言を聞いたこの日から、俺の心に少し変化が起きた。彼を呼ぶ声に僅かに力が入り、声を聞けば、姿を見れば心が踊る。その繰り返し。
「火星から戻ったら、伝えたいことがあるんだ。」
そう言って、地球をとびったった日。俺はナマエと戻ってきたいと願った。
「じょうじ」
紅、紅、紅、あか、アカ
飛び散ったのは何だ?頬を流れる液体は何だ?この匂いは何だ?
「ナマエ!!!!!!!!」
好きなんだ、一緒に生きて行きたいと思うほど…
俺の叫びはまた、火星に囚われる。