手から零れ落ちた雫
『慶次君、今日早く帰ってこれますか?』


昼食の時間にスマホを見たら入っていたメール。一緒にご飯を食べていたマルコス達から酷くからかわれたけど、彼女からのメールが何を意味しているのか分からず唯困惑してしまった。


彼女、ナマエは俺の最愛の奥さん。元は同じアネックスに乗ったクルーの1人だった。一緒に生活をしていく中で、初めて感じた恋心。小町艦長や燈君に背中を押してもらって想いを告げた。私も好きです、そう返してくれたナマエの笑顔が眩しすぎて、顔を覆って泣いたんだ。


数え切れないほどの日々を一緒に過ごしてきた。楽しい日も、火星で過ごしたあの気の狂いそうな絶望の日々も。満身創痍で帰還した日から数日、ベッドに寝る俺とそれを看病してくれるナマエ。包帯だらけの俺の手が、これまた包帯だらけの彼女を手を取ったとき、自然にプロポーズの言葉が零れた。


「ただいまナマエ。」


「おかえり、慶次君。」


パタパタと家の奥から出迎えてくれた姿が可愛い。でも、いつもはホッとするのに、今日は違う。何だろう?何かの記念日じゃない筈だけど…


「ご飯にする?お風呂にする?」


「あーっと、シャワーはU-NASAで浴びて来たんだ。」


「じゃあ、ご飯だね。」


「そうなんだけど、メール…」


「あ、えっと、気になるよね。」


結構意味深なメールだもんね、彼女が溢した。


「えっとね、」


何だろう、別れたいとかじゃないよな?


「出来ちゃったの、赤ちゃん…」



顔を覆った手から涙が零れ落ちた。



(ただただ嬉しくて、幸せで)

(あの日から夢の日々なんだ)
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