貴女と同じ衣服で
最近寒さが和らぎ、陽射しに暖かさが戻ってきた。

「春かぁ…。」

自分の生まれ育った世界では消え失せていた四季を体感できるようになった転移後。罅や混沌獣が現れてもそれは崩壊することなく、ついに一周してしまった。

「昨年の花見は、ふふっ…。」

思い出すのは謎の樹と皆の笑顔。本来であれば桜などを愛でるのだろうが、流石異世界!あの樹を見たときのモモンガさんと私の感想は大方合致していて、次は普通の花見をと言ったギルマスの言葉におおいに頷いてしまった。

「なまえサマは、花見がお好きなのデスカ?」

「ん?せやね、昨年のはとても豪華やったから、機会があるなら次は普通の花見をやってみたいねぇ。」

そうですかと創造物がいつもの調子で返事を返すのを聞いたのが数日前。そして急に相談がしたいとやって来たデミウルゴス。

「任侠衣装…?」

「はい、これを着ることで私の御方々への忠誠を体現したいと思っております。」

「なるほど。それで?」

「つきましては、その…。」

「デミウルゴス?」

珍しく歯切れの悪い彼にもう一度呼び掛けると観念したように、小物は何を持った方がよいのでしょうかと恥ずかしそうな返事が帰って来た。

『可愛らしいわぁ。』

あれやこれやと小物を提案され、一つ一つ厳選していく。

「刀は必須と聞いておりますが。」

「そ、そうなん?なら、この大太刀なら火も纏わせられるんやない?」

「煙管は如何でしょうか?」

「似合うとは思うけど、うーん。」

「ッ、では、こちらは?」

「扇子持つくらいなら、羽織にしたほうが格好ええよ?」

「羽織に致します。」

キッパリと言いはなったデミウルゴスは、偶々私が差し出した紫色の羽織を受け取り何故か固まってしまった。

「違う色柄がよかった?じゃあ、」

「い、いえ、こちらに致します!」

手に持った羽織の柄、蛙を指でなぞる彼を見て、自己顕示欲が強いのだなと感心していると、きちりと着込んでいくので、慌てて羽織るだけにさせる。

「如何でしょうか?」

「うんうん、格好いいねぇ…。」

褐色の肌と緋色の着物地がよく似合っている。ウルベルトさんに見せてあげたいものだと、頷いていると震えた声が聞こえてきた。

「お誉め頂き、恐悦至極に存じます…。」

「素材がいいからねぇ。モモンガさんも喜んでくれるやろ。」

それからとモゴモゴし出すデミウルゴス。

「どうしたの?」

「不敬だと重々承知しているのですが、なまえ様のお召し物と対のようで、その、嬉しいのです…。」

「ふふ、じゃあ、髪型も近くしてみよか?」

「え?あぁ、そんな!?」

「こら、じっとしとって。」

「は、はい。」

「ガッチリ固めてるんやね…、痛かったら言って。」

『なまえ様の御手がっ…!!』

綺麗に整えられたオールバックを丁寧に崩して、己の髪を結っていた紐で縛る。これで完成と鏡を差し出すと、こほんと咳払いをしたデミウルゴスがまた恭しく礼を述べたのだった。


貴女と同じ衣服で

(ちょ、なまえさん!あの髪紐と短刀!!)

(あ、気付きました?実は二人とも私プロデュースなんですよ!)

(火に油ー!!!)




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