傍にいたかった
「俺みたいな屑によく付き合ってられるよね。」

「何してるの、ほんとドジなんだから。」

「ねぇ、バカなの?」

珍しい六子で、全員がニート。一見まじめな奴から、痛いやつ、テンションハイなやつ、個性はそれぞれ。そんな中でもひと際めんどくさいのが自分だと思う。根暗で、闇を抱えてるなんて、世の中の屑としか言いようがない人間。それが自分の評価。

猫だけが癒し。最近、変な薬でその猫さえも信じられなくなりかけたけれども・・・本当は友達が欲しいとか、心のどこかで思ってるんだろうけど、自分じゃ無理だってわかってる。考えてみればすぐわかる、だってこんな屑誰も相手にしないだろ?

そんな最低の自分と兄弟以外で関わるやつができた。公園で捨て猫をかわいがってた時に、出会ったみょうじって女。そいつも猫が好きで、その捨て猫を見つけて餌をやってたらしい。

「飼えないの?」

「うん・・・飼ってあげたいんだけど、家、マンションだから。」

コンビニで買ってきたっぽい猫缶を与えながら、悲しそうに話すみょうじ。松野家では買うというよりも、野良が寄ってきている、そんな感じだからうちの近くで面倒見てもいいのに。

「飼えないのに餌付けだけするとか無責任なんじゃないの?」

「えっ、」

「あ、ご「そうだよね、確かに無責任だなぁ、私-」

優しい言葉を言うどころか、自分考えていることすら口に出せない。泣きそうな彼女の横顔を見ながら、自分の愚かさを改めてかみしめる。耐えきれなくなったのが先か、猫が食べ終わったのが先か、彼女は逃げるように帰っていった。何を思ったか、彼女の帰った方向へ手を伸ばしかけた自分。呼び止める言葉もないのに。

「にゃぁ」

残された猫が鳴いた。毛並みの悪くなった、痩せたフォルム。無性に自分に重なって、腕に抱いて帰った。

「飼って、くれたんですか?」

数週間後、公園で拾った猫と遊んでいるときにみょうじに再開した。彼女の手から、コンビニのビニール袋が落ちて、猫缶が転がってくる。覚えていたのか猫は缶に駆け寄って開けろとねだった。

「連れて帰ったら、家に居ついただけ。」

そっけない返事にも笑って、よかったと安心した彼女と猫がまた缶詰を食べる様子を眺める。あの日から、少し来れない日が続いて、久しぶりに来たら猫の姿が見えなくて心配しただの、その日から帰りに寄るようにしてたとか、たわいもない話を聞く。他人の話なんて聞くに堪えない自分が、何も言わずに彼女の話を聞いていることに内心驚いている。

『この時間が続けばなんて・・・そんなこと。』

「もしよかったら、たまにでいいので猫見せてもらえませんか?」

ネガティブモードの思考回路を一刀両断する一言に、あっけにとられた自分はいつの間にかyesの返事を返していて、普段使用しないスマホのアプリに初めて兄弟の知らない人間の名前が登録された。

その日からメッセージのやり取りをしたり、猫の写真を送ったり、たまに公園で会ったり。猫好き同士、会話は楽しくて心地いい。だけれど自分に自信の持てない俺は、ひたすら自分や彼女を貶める言葉を口にする。

「俺みたいな屑。」
「そんな!こんなに猫にやさしい人がそんなはずありません!」

「何してるの、ほんとドジなんだから。」
「えへへ、言い返す言葉もないです。」

「ほんとはこんな屑とか生きてる価値ないとか思ってるんでしょ?」
「まさか!一松さん、自分に自信持ったほうがいいですよ?」

「ねぇ、バカなの?」
「うぅ。」

自分でも阿保かって思うくらい、みょうじに気を許してたんだと思う。それに、彼女もまんざらじゃないと感じてた。だから途中から、軽口みたいな感じで彼女に投げていた言葉たち。こんな自分を受け入れてもらえたと心が歓喜してた。

「もう連絡しないでください。」

理解が追い付かなかった。

「・・・何言ってんの?」

「だから、もう連絡しないでください。私も、この公園には来ません。」

「何それ。猫に合わせてくれって言ったのそっちでしょ。」

「・・・確かにそうです。けど、もう会いたくないんです。」

一松さんに―

「俺に?」

猫ではなくて、自分に会いたくないという事実に驚愕。

「意味わからないんだけど・・・」

「・・・」

「黙ってちゃわかんない。というか、ほんとは好きなんでしょ?」

精一杯の虚勢を張ってみる。確かに自分は彼女の好意を感じてた。それは間違いないはず。

「・・・そうですね、私はイチ松さんのこと好きでした。」

「なら、「でも、自分や周囲を卑下ばっかりして、一瞬の気の迷いだったんだと思います。」

さようなら、そう言って数か月前のように帰っていく彼女の後姿に手を伸ばした。呼び止める言葉は浮かばないまま、膝の上で猫が鳴くまで。


本当は、もっと傍にいたかったんだ


(自分に自信が持てなくて、嫌われるようなことばかり口にした)

(彼女の心が消える前に、もっと別の言葉を伝えてればよかったのだろうか?)





あとがき
友人がガチ嵌りしていたので、GWにやっと全話見てみました。勢いってすごいですね・・・テラフォが書きたかったのにいつの間にか松のお話になっているという怪奇現象が起こってます!まつパワーこわい!?

リピートで読み込んでいないので、口調とか雰囲気とかだいぶ異なってるんじゃないかと思いますが、そこは自己満ということで申し訳ないです・・・・

ご一読ありがとうございました!!!!

inspired by もっと
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -