優しい接吻を
『太郎さん、太郎さん』


皆が寝静まるころ刀剣たちに渡された小型無線機から主の声がする。少しくぐもった声は、寝れないのだと告げた。急いで、だが他の者たちを起こしてしまわないようにと最大の配慮をし、主の部屋を目指す。本丸の最奥にある大きな障子で締め切られた部屋の前に着き、ひとつ深く息を吐いた。


「主、太郎太刀参りました。」


部屋へは許可がなければ入れない。だから、中に居る主に聞こえる程度に声をかける。


「入っていい。」


そっと障子を引いた先には、敷かれた布団に腰かけている主の姿があった。


「太郎、いつもごめんな。」


「いいえ、大したことではありません。」


そっと近くに寄り、主の瞳を覗いた。先程まで泪していたのか、赤く潤んだ瞳がぼうっと此方を見返す。ふと絡まった視線の次、主の体が勢いよく私の元へ飛び込んできた。何なく受け止めた体は温かく、だが酷く頼り無い印象を受ける。日頃私たちに暖かな笑みを送り、誰からも頼られているこの本丸の元締めとは思えないほどに。太郎、太郎とうわごとのように我が名を呼び、胸に頭を押し付けて来る主。あぁ、何がそれほど貴方を不安にさせるのでしょうか。


「主、主、」


いつもの様に、押しつけられる頭を撫でる。少し堅い髪を梳く様に指を絡め、何度も撫でてやる。


「太郎」


「少しは落ち着きましたか?」


そう尋ねれば、まだと被りを振られてしまったが、まぁ、これもいつもの事。


頭を撫でていた手を頬え添え、下げられていた面を挙げさせた。目尻に堪った雫がそっと流れ、私の手に当った所で、私は何も言わずに彼へ口付けた。唯触れあう唇同士。其れはほんの数秒で離さなければならない。


「主」


「たろう?」


「安心してお眠りください。貴方が眠りに着かれるまで、傍におります。」


わんわんと赤子のように泣き出してしまった彼を抱きしめ、背をさする。暫くすれば鳴き声は静かな寝息に変わってゆく。


そして毎夜私は眠った彼の人に誓うのだ。



「主、いいえなまえ様。この太郎太刀、貴方を脅かす全てからお守りすると此の接吻に誓いましょう。」






優しい接吻を






あとがき
太郎さんのキャラが掴めぬまま書いたせいで似非感が半端ないです(+_+)
駄文失礼しましたぁあああああ!!!



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