福を運ぶ
遠征組が帰って来たのだろうか、一気に騒がしくなる本丸内。
内番であったり暇を貰っていたであろう者たちが扉に駆けて行くのを私は屋根の上から眺めていた。
『粟田口が多いな。一期一振が出ておったか。』
ふと瓦の下に藍が揺れるのが見えた。恐らく軒下にはかの麗人が安堵の表情を浮かべているのだろう。
『全く、そんなに心配ならばあの子らと同じように駆けて行けばよいものを。』
意地っ張りな彼が、夫の出陣した日より落ち着きなくこの軒下を歩いていたことを知っている。そしてその逆も―
一通り出迎えが終わったのか、静けさの戻った本丸の私の座す場所からも見える桜の木の下。先程の夫婦が手を取りあい久方ぶりの逢瀬を楽しんでいた。藍の麗人は狩衣の裾で口元は隠しているものの、朱の差した頬や目尻までは隠せていない。其れを満足そうに、嬉しそうに見守る掃天の君。
『睦まじいものだな。最初こそどうなるやと心配であったが、いやはや縁とは恐ろしいものよ。』
忘れた者、忘れられた者。お互いに何も現さず、各々の時を歩めば良いと思っていたが、しかし忘れきれぬ者と何も覚えておらずとも惹かれる者。結局納まる所に納まったのだ。
『福をもたらすと云われる儂でも、お前達のことは冷や冷やしたぞ。まぁ、終わりよければ万事善し。次は何処に行こうかのう。』
さらさらと風に揺れる緑溢れる枝の隙間で2色が重なった。
あとがき
あけましておめでとうございます!
随分と離れていましたが、今年ももそもそ書いていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
パソコンが壊れてしまったので、半年前に書いたものですが年明けの雰囲気をぶち壊さないのを書いててよかった!!!いちみか大好物です(笑)
ご一読ありがとうございました。