彼の特別な人
私、愛田さちは急展開した生活を送っています。


就活も、単位も危ないと知った日、制服のオジサマにときめいてしまう体質を知った日、単位修得のためオジサマに接近しないといけないと分かった日。この数週間で私の日常は激変しました。


制服のオジサマに息切れとか、眩暈とか凄く怖くて、不安で。お母さんはいずれ治るって言ってたけど、どうしても納得できなくて訪れた松本病院。


先生は白衣の素敵なイケメン・・・ではなくて、よれよれの白衣に眼鏡のオジサマ。す、凄く嬉しそうって!?勘違いしないでください!私にとっては死活問題なんですよ!!


治療もそうだけど、単位修得のための取材にも協力してもらっています。症状を分かってくれてる人の方がいいと思って。


「おはようございます!!」


清潔感あふれる病院内では、看護師長の染谷さんとベテラン看護師のなまえさんが既に仕事をされていました。2人ともとっても良くして下さって、松本先生にいじめられた時とかに良く助けてもらったり、おやつを貰ったり。


染谷さんは院長先生の頃から此方にいらっしゃる古株の看護師さんで、看護師長さんという立場もあるのか凄く頼りになるお母さん的な方。対するなまえさんは、まだ若いと思うけど、しっかりしていて優しい方です。若いって言ったけど、腕はすごいよくって。松本先生とは前の病院から一緒で、先生が引き抜いてきたって誰かが話してくれました。


姉が居たらこんな感じなのかなって思ったり。だけど、ふとした瞬間。それはお昼の休憩中とか、一人の時とか、寂しそうな顔をしてあるのを観たことがあります。


コンコン


「松本先生、おはようござっ!!」


先生の姿が視界に入った瞬間、視界がぐらりと揺れた。


『なんで、こんな恰好で寝てるの!!??』


来客用のソファで松本先生は気持ち良さそうに寝てありました。先生の上には気持ちぶんくらいに掛けられた白衣。


『着てなくっても、眩暈が出るなんて・・・』


どうしてそうしたのかは分からないけど、ソファに近づいてしまった私。距離が縮まるにつれ、動悸は激しくなって辛いけれど、足を止めることができません。


後1歩でソファの真横に立つ、そんな距離で先生の口が動いたんです。


「んっ、なまえ・・・」


どくり、体が跳ねてぶつかってしまったローテーブル。


「っ!? おじょう、ちゃん・・・?」


飛び起きた先生。寝起きの擦れた声に、また眩暈がしました。


「お、おはようございます!」


「どもっちゃってー。あ、もしかして襲おうとしてた?」


「なっ!?そんな事あるわけないじゃないですか!!」


大笑いする先生が、いつもと同じでホッとしたのもつかの間。ゴミ箱には、沢山の煙草の吸殻。なのに執務室は入って来た時から煙どころか、煙草の匂いもほとんどしません。



『んっ、なまえっ・・・』


もやもやした自分が凄く嫌になりました。






彼の特別な人



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