気になるあの子
俺達の出会いは、本当に偶然なんだと思う。


訓練の一環とカッコつけて自転車で出勤し始めて3日目だった。その日は訓練が午後からで、いつもより遅い時間に家を出たんだ。


「風がきもちー。」


心地よい日差しに鼻歌でも出てきそうな昼下がり。ふと聞こえてきた日本語の旋律に走らせていた自転車を停めた。


『日本で聞いたことある歌じゃん…』


なんて曲だったかなーなんて考えながら、歌っている子を見ようと庭先に視線を向けたんだよね。そしたら、窓際の木陰に白いブラウスの映える女の子が座ってた。20代後半くらいか?そこまで考えて、出勤途中だと言うことを思い出した。やっべ、遅れちまう。急いで自転車を職場へと走らせる。


「何であんなに哀しそうにしてんだろ…?」


顔を撫ぜる風にそんな独り言が溶けた。それが俺のファーストコンタクト。


それから晴れた日にその家の前を通ると、必ず木陰には彼女の姿があった。この半年で気付いたことが3つある。1つ、彼女には白いブラウスが似合う。これは初めて会った日から思っていたこと。2つ、彼女には青いスカートも似合う。少し寒い時期は暖色のスカートを身に着けていた彼女が、暖かくなってから青とか水色のスカートを履き出した。初めて青いスカートをはいた姿を見た時、白いブラウスとのタッグに胸が躍った。なんだかストーカっぽいけど、断じて違う。彼女のいる風景は、俺の日常の一部分なんだ。名前も知らないけれど。何でこんなに気になっているのかってと、それは3つめ。


『まーた、哀しい顔してた。』


自転車を走らせながら、思い出す彼女の表情。可愛らしい洋服を着て木陰で歌う彼女は、決まって哀しそうな浮かない表情をしていた。


「可愛いのにな〜。」


半年前と同じように独り言は風にさらわれていった。


名前も知らない女の子の観察を始めて半年とちょっと。色々気になっていた俺に転機を与えてくれたのは、飼い犬のアポだった。


「ちょ、アポ!待てって!!」


散歩途中に飛び出して行ってしまったアポ。慌てて後を追えば、白いブラウスに青のスカートの女の子に戯れていた。


「ごめん、やんちゃなやつで。」


「ふふふ、可愛いですね。お名前なんて言うんですか?」


「アポって言うんだ。」


「へー、初めましてアポちゃん。」


この日、半年とちょっと観察した彼女と初めて会話した。これが俺達のファーストコンタクト。彼女の名前はなまえちゃんって言うらしい。肩で切りそろえられた黒髪が綺麗な日本人。わけあってヒューストンで暮らしているらしい。動物が好きみたいで、結構アポとじゃれあってた。最初っからだったけど、アポの方もなまえを相当気にいってるみたいだ。


「南波さんって、宇宙飛行士なんですよね?」


「ん、あぁ、そうだよ。」


「酸素の薄い世界ってどんな感じなんですか?」


なまえちゃんのこの問いに、俺はなんて返したのかよく覚えてない。ただ、この一言に少しの違和感を感じた。


「なぁ、アポ。」


「わん!」


「始めて宇宙飛行士に会ったら、何て質問する?」


「わん、わんっ!!!」


「だよなー。普通だったら宇宙ってどんなとこですかとか、地球は綺麗ですかとかだよなー。」


帰った家のリビングでアポに話しかける。犬である彼から意見がもらえるなんて思っていないが、なんとなく。やっぱりあの時感じた違和感は当たっていた。普通なら最初に『酸素の薄い世界』なんて出て来る筈がないんだ。次の日クルーのダミアンやバディ、カレンも同じことを言っていた。何であんなこと聞いたんだろう?


「よしっ、今度聞いてみよう!」


会う約束はしてないけど、アポが見つけてくれんだろ?なんて思いながらにやけた口元を隠さずに訓練を始めた。



気になるあの子



(遂にヒビトに春が来たぜ!)

(不思議な子みたいね。)

(ニンジャに知られないようにしなきゃじゃない。)













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